DeFiのエコシステムが発展するにつれ様々なアルゴリズミックステーブルコインが発行されています。しかし、裏付け価値が100%担保されていないものもあり、それらはしばしばペグが外れる現象が見られます。このような問題を解決するため、UXD Protocolは、価値が100%担保されつつ、資本効率や安定性が高いステーブルコインをSolanaブロックチェーン上で発行できるようにします。
今回は、UXD Protocol CEO & Founder 稲見建人氏に、プロジェクトを立ち上げた経緯や、UXDが他のステーブルコインと比べてどのように優れているかを中心に訊いていきます。
インタビューは前後編に分かれており、本記事は前編となります。前編では、UXD Protocolがどのようなものかを中心にお伝えしていきます。
前編 UXD Protocolとは?
稲見建人氏の自己紹介
加藤:最初に、稲見さんについて教えてください。どのようなバッググラウンドをお持ちで、ブロックチェーンに関わるに至ったのでしょうか?
稲見:稲見建人(イナミ ケント)と申します。もともと、私は大学で経済学を専攻しており、金融業界に入りたいと考えていました。そして、大学卒業後はメガバンクに入行しました。
入行は2014年で、支店業務と法人営業を2年やりました。その後、デリバティブのトレーディングに従事して、主に円金利のスワップとコモディティデリバティブを扱いました。トレーディングは1年ほどしかやりませんでしたが、トレーディングが思ったほど専門的な職業ではなく、ずっとやる仕事ではないと思っていました。また、私自身が銀行のカルチャーに全く馴染めないこともあり、スパッと辞めました。
加藤:ブロックチェーン業界にいる人のあるあるですね。
稲見:そして、私は大学生のころにオンラインポーカーをやっていました。当時はそこそこ勝っていて、オンライン以外にも海外のカジノに行って稼いでいました。ですので、銀行を辞めてもポーカーで十分お金を稼げると思っていました。
銀行を辞めてから、最初は韓国、他にラスベガスやロンドン、バルセロナに行き、半年ほどカジノで稼ぎながら色々な国をまわりました。
加藤:それはすごいです!差し支えなければ、月いくらくらい稼いでいたのでしょうか?
稲見:毎月○○万円(詳細は秘密)です。プロとしてめちゃくちゃ強いわけではありませんでしたが、生活するには十分でした。
加藤:確かに、生活するだけなら十分な額ですね。
稲見:そして、ある時Twitterでビットコインに関する記事を読みました。
もともと、私は2013年にビットコインのことを記事を読んで知っていましたが、その時はすぐにMt.GOX事件が起きてしまい、これはダメだなと思ってすぐに忘れてしまいました。
2017年にもう1回バブルが来てビットコインの記事が出てきたときに、再び調べました。そして、ビットコインの論文を読んで、これはかなり革命的であることに気がつきました。Mt.GOXは関係ないし、すごいイノベーションだと感じ、この業界にフルコミットしたいと思うようになりました。
そこで、日本に戻ってビットフライヤーに応募し、事業開発部で働くことになりました。それ以降は、ずっと暗号資産・ブロックチェーンの世界にいます。
加藤:こうしてみるとなかなかおもしろい経歴ですね。
稲見:よく言われます。特に、ポーカーのところは色々な人に突っ込まれます(笑)
UXD Protocolの紹介
加藤:さて、ここから稲見さんが現在取り組んでいるプロジェクトについてお訊きしていきます。UXD Protocolについて紹介をお願いします。
稲見:UXDは、デルタニュートラルポジションに100%価値が担保された、アルゴリズミックステーブルコインです。UXDを発行するプロトコルがUXD Protocolです。
デルタニュートラルポジションとは、ビットコイン現物をロングしていて、同じ数量の無期限先物をショートしている状態です。ビットコイン価格が下がった場合は、現物のポジションは損しているのですが、先物のショートポジションが儲かっていて、ちょうど利益と損失が相殺されます。逆に、ビットコイン価格が上がった場合は、現物が儲かり先物が損して相殺されます。つまり、デルタニュートラルポジションでは損益が常にゼロになるということです。損益が常にゼロのポジションというのは、要はステーブルコインとまったく変わりません。
UXDは、この損益がゼロのポジションによって100%価値を担保します。Solanaの上で発行され、デリバティブDEXをバックエンドで用いることによってデルタ・ニュートラルポジションを生成します。具体的には、UXD Protocolに入金された暗号資産を担保にして、デリバティブDEXで同額のショートポジションをとります。UXD Protocolでは、最初の暗号資産はビットコインのみの対応で、今後種類を増やしていきます。また、デリバティブDEXについては、最初はMangoのみに対応し、徐々に増やしていきます。
ユーザーは、いつでも様々な暗号資産と引き換えにUXDを発行することができるようになります。デルタニュートラルポジションから発生するファンディングレートは、UXDを保有しているユーザーに付与されます。1UXDを発行するためには、1USD分のみの暗号資産が必要であり、MakerDAOみたいに過剰担保を必要としません。なぜならば、デルタニュートラルポジションが資金効率的であるからです。UXDを発行する時に、ユーザーは暗号資産を担保にUXDを借りるのではなく、暗号資産と”交換”します。
デリバティブDEXを用いることによって、完全にノンカストディアルかつトラストレスな形でUXDが発行されるというのがポイントです。
加藤:これはどのようなアイデアから思いついたものなのでしょうか?
稲見:去年の夏ごろにTetherの記事を読んでいました。Tetherはオフショアの銀行に資金を置いています。なぜ彼らがオフショア銀行かというと、シティバンクやJPモルガンのようなきちんとした銀行は彼らのお金を持ちたくないからです。そして、ある時Tetherの親会社iFinexがTetherの準備金約915億円を流用したという事件が起きました。iFinexはその穴埋めのために、取引所Bitfinexで1000億円のLEOトークンを発行して損失を穴埋めしました。これは当然問題ですよね。
加藤:確かに、当時あのニュースを見た時は大した金策をするものだなと思ったものでした。
稲見:結局、問題は銀行口座を持たなければならないからということに起因していています。もし、一切銀行口座を持たず、つまり現実世界から切り離されていて暗号資産の世界だけで完結するステーブルコインを作れば、このような問題は起きないと考えました。
私は、自分の資産管理をするためにデルタニュートラルポジションを作っていました。そこで、デルタニュートラルポジションに担保されたアルゴリズミックステーブルコインが作れてしまうということに気がつきました。
加藤:面白いですね。現実世界にある資産にペグしたステーブルコインなのに、その現実世界にある銀行口座の存在を否定してしまうというのは。
稲見:そうですね。MakerDAOもそういうことを考えて作っていますし、他のアルゴリズミックステーブルコインも同じ目的で作っていると思います。そういう意味では、UXD Protoolもその潮流を考えてやっているというのはあります。
UXD Protocolのアイデアを思いついてからは、ホワイトペーパーを書き、ウェブページを作って、エンジニアを採用しました。後はVCへピッチをするなど、徐々にプロジェクトを進めていきました。
後編へのつなぎ
前編では、主にUXD Protocolのプロジェクトの概要について訊いていきました。
後編では、他のステーブルコインと比べて何が優位なのか?そもそもUSDとのペグが外れる心配がないのか?など、さらに深い部分についてお伝えしていきます。