Walrus (WAL) の概要
Walrus(ウォルラス)は、Suiブロックチェーンの開発元であるMysten Labsが開発している分散型ストレージおよびデータ可用性のプロトコルです。
Suiは、バリデーターのストレージにデータを保管できる先進的なブロックチェーンとして知られています。しかし、現行システムではすべてのバリデーター間でデータを完全に複製する仕組みを採用しているため、100以上のバリデーターに同一データが存在することになります。この方式は、ステートの計算が必要なブロックチェーンのデータには有効ですが、音楽や動画などの計算を必要としないBLOB(Binary Large Object)データに対しては極めて非効率的です。実際、動画データは100個のノードではなく、数個のノードに分散して保管するだけで十分だからです。
Walrusは、このデータ保管の非効率性を解消し、より高度なデータ可用性を実現します。システム全体でのデータ複製係数を4~5に抑えることで、Suiブロックチェーンの標準ストレージと比較して大幅に効率を向上させています。また、ストレージノードの3分の2が機能停止しても、データ復旧が可能な高い耐障害性を備えています。さらに、WalrusのストレージネットワークはSuiのセキュリティによって保護されているため、実質的に悪意のある制御を受けることはありません。
Walrusの特徴は、単なるデータ保管やロールアップのための可用性データの提供にとどまりません。Webページのホスティングも可能で、さらにSuiブロックチェーンに限らず、EthereumやSolanaなどの他のチェーンでも利用できます。これにより、Walrusは汎用的な分散型ストレージソリューションとしての地位確立を目指しています。
Walrusの特徴
高いストレージ効率と回復性の両立
Walrusは消失符号化(Erasure Coding)を使用して、データを分散形式で保存します。消失符号化では、データを分割し、その情報から冗長データを生成します。データが破損した際には、この冗長データを用いて元のデータを復元することが可能です。この方法により、単純なデータ分割よりも効率的なストレージ利用が可能になります。Walrusでは、消失符号化を用いることで、4~5倍の低オーバーヘッドを実現しています。
オーバーヘッドを抑えながらも、Walrusは高い回復性を提供します。ストレージノードが3分の1にまで減少してもデータの書き込みが保証され、3分の2にまで減少してもデータの読み込みが保証されます。
大規模運用に対応する効率的な符号化
Walrusは、データ分割のエンコードアルゴリズムとして、独自のレッド・スタッフ符号化(Red Stuff Coding)を採用しています。これは、分散型ストレージで一般的なリード・ソロモン符号(Reed-Solomon Coding)の欠点を克服した方式です。
従来のリード・ソロモン符号には、エンコードとデコードの両過程で計算コストが高くなる問題がありました。また、ストレージの交換時に、交換後のストレージのデータを回復するために保管データの総容量に匹敵する大量のデータ転送が必要となります。特に、日常的にどこかのストレージが故障していることが当たり前の大規模ネットワークでは、これらの問題が深刻なコスト増加要因となっていました。
レッド・スタッフ符号化は、データをスライバーに分割することで効率的なストレージを実現します。リード・ソロモン符号と同等の1次元符号化に加え、2次元の線形消失符号化とツインコードフレームワーク(Twin-code framework)による符号化を組み合わせることで、高速な符号化処理と、ストレージ交換時のトラフィック抑制を両立しています。
WALトークン
Walrusでは、$WALトークンを使用します。2025年1月3日時点で$WALは発行されておらず、詳細も公開されていませんが、以下の用途が判明しています。
- ノードに参加するための担保として使用
- Delegated Proof of Stake (dPoS) におけるステーキングで使用
- ガバナンスで使用