Layer2・サイドチェーン暗号資産

INTMAX (ITX) の解説 ~究極のスケーラビリティとプライバシーを両立した決済ネットワーク

Layer2・サイドチェーン
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INTMAX (ITX) の概要

INTMAX(イントマックス)は、決済用途に特化したEthereumのレイヤー2です。

その最大の目的は、ネットワークの混雑状況に左右されない常に低い手数料と強力なプライバシーを両立させた決済インフラを提供し、ブロックチェーンの大衆普及を加速させることです 。多くのプラットフォームとは異なり、INTMAXは汎用スマートコントラクト機能を意図的に放棄し、効率的なトークン転送に注力しています。

その核心はステートレスと呼ばれる画期的なアーキテクチャにあります。これは、ネットワークのブロックプロデューサーがユーザーの取引履歴や残高といったステートを保持する必要がないということを意味します。結果として、INTMAXはトランザクションあたり約5バイトという極めて少量のデータのみをオンチェーンに記録します 。これは、すべて取引データをオンチェーンに記録する主流のロールアップ技術とはまったく異なるアプローチであり、レイヤー1のデータ帯域幅というスケーラビリティの根本的なボトルネックから解放されます。INTMAXは、最大約266,000 TPSのネットワーク容量を確保することができます。

この革新的な設計は、かつて実現不可能と見なされていたレイヤー2のスケーリング技術「Plasma(プラズマ)」を、ゼロ知識証明と組み合わせることで実現しました 。この独創性はEthereum共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏や、コアリサーチャーのジャスティン・ドレイク氏からも高く評価されています 。

INTMAXはプロトコルだけでなく、公式の「INTMAX Wallet」や、ネットワークのプライバシー向上に貢献することで報酬を得られる独自のインセンティブ設計「プライバシーマイニング」といったエコシステム全体で、ペイメントネットワークとしての価値を高めています。

INTMAX (ITX) の特徴

Plasmaの再発明 ~一度は頓挫した技術の課題克服

INTMAXの技術的基盤を理解する上で欠かせないのが、2017年頃に提唱されたレイヤー2スケーリング技術「Plasma」です。Plasmaは、Ethereum本体(レイヤー1)から独立したサイドチェーンで大量のトランザクションを処理し、その結果のみをレイヤー1に報告することでスケーラビリティを確保する仕組みです。

しかし、従来のPlasmaには課題がありました。それは、データ可用性の問題です。悪意のあるサイドチェーンのオペレーターが取引データを公開しなかった場合、ユーザーは自分の資産を引き出すための正当な証明を生成できず、資産が凍結されてしまうリスクがありました。この問題が障壁となり、Plasmaは次第にロールアップ技術にその座を譲っていきました。

INTMAXは、この歴史的な課題をゼロ知識証明を用いて解決しました。INTMAXのモデルでは、ユーザーは中央のオペレーターにデータ可用性を依存しません。代わりに、各ユーザーが自身の取引データを自身のデバイスで管理します。送金者は、取引の証明を受信者に直接オフチェーンで渡し、レイヤー1には取引内容そのものではなく、取引が行われたという事実を証明するごく僅かなデータコミットメントのみを記録します。

この構造は、取引データをオフチェーンに保つ点でPlasmaに似ていますが、レイヤー1に投稿される状態遷移の正当性をゼロ知識証明によって数学的に保証する点でzkRollupの性質を併せ持っています。これにより、INTMAXはPlasmaの極めて少ないオンチェーンデータという利点を享受しつつ、ユーザーの資産の安全性を保つことができる、ハイブリッド型のPlasma/Rollupを確立しました。

ステートレスアーキテクチャ ~レイヤー2の常識を覆す鍵

INTMAXの最も革新的な側面は、その「ステートレス」アーキテクチャです。ブロックチェーンにおける「ステート」とは、全アカウントの残高や取引履歴の集合体を指します。従来のレイヤー2では、シーケンサーやバリデーターと呼ばれるノードがこのステートを維持・管理する必要がありました。

これに対し、INTMAXの「ステートレス」設計では、ネットワークのノードはステートを一切保持しません。ステートの管理と保存の責任は完全にユーザー側に移譲され、各ユーザーが自身のデバイス上でデータを管理します。この設計思想が、以下のメリットを生み出します。

  • 常に低い手数料: ブロックビルダーはステートを保持せず、複雑な計算も行わないため、その運用コストは極めて低く抑えられます。これにより、ネットワークがどれだけ混雑しても取引手数料が一定量で安定し、高騰することがありません。
  • 極限のスケーラビリティ: オンチェーンへのデータ書き込みがボトルネックにならないため、理論上、毎秒7,500のトランザクションバッチ、100,000件以上の送金処理が可能とされています。さらに、一度のトランザクションで複数の宛先に送金しても追加のデータコストはかかりません。
  • 高い分散性と検閲耐性: ブロックビルダーになるための要件が非常に低く、誰でも許可なく参加できます。ビルダーは互いに同期する必要なく並列でブロックを生成できるため、ネットワークは極めて分散化され、特定の主体による取引の検閲が困難になります。

INTMAX Wallet ~プライバシーと使いやすさを追求したウォレット

INTMAX Wallet

INTMAXエコシステムの入り口となるのが、公式ウォレット「INTMAX Wallet」です。このウォレットは、ハードウェアウォレットレベルのセキュリティとシンプルなユーザー体験の両立を目指して設計されています。

そのセキュリティの根幹を支えるのが、以下の二つの先進的な暗号技術です。

  • MPC (Multi-Party Computation): 秘密鍵を単一の場所に保管せず、複数のデバイスやサーバーに断片化して分散管理する技術です。これにより、単一のデバイスが攻撃されても秘密鍵全体が漏洩することがなく、単一障害点を排除します。
  • FHE (Fully Homomorphic Encryption): 「完全準同型暗号」と呼ばれる最先端技術で、データを暗号化したままの状態で計算処理を行うことを可能にします。トランザクション処理中であっても、機密情報が一切復号されないため、最高レベルのプライバシーとセキュリティを実現します。

また、ユーザー体験を向上させる機能も搭載されています。

  • リンク転送 (Link Transfer): 相手のウォレットアドレスを知らなくても、専用のURLリンクを送るだけで暗号資産を送金できる画期的な機能です。受信者がリンクを開くと自動的にウォレットが生成され、資産を受け取ることができます。これにより、暗号資産の送金がSNSでメッセージを送るのと同じくらい手軽になります。
  • オン・オフランプ機能: 金融インフラプロバイダーのUnlimitとの提携により、ウォレット内で直接、法定通貨と暗号資産の交換が可能になっています。これにより、世界中のユーザーがシームレスにINTMAXエコシステムへ参加できます。

プライバシーマイニング ~プライバシー貢献へのインセンティブ設計

INTMAXは、プライバシーマイニングという独自のトークン$ITXの配布メカニズムを導入しています。これは、単なる流動性提供へのインセンティブではなく、ネットワーク全体のプライバシー向上という公共財への貢献を促す仕組みです。

その概念は、アノニミティ・セットの拡大に貢献したユーザーに報酬を与えるというものです。アノニミティ・セットが大きいほど、多くのユーザーの取引が混ざり合い、個々の取引の追跡が困難になるため、ネットワーク全体のプライバシーが強化されます。

 

プライバシーマイニングの仕組み

参加は非常に簡単で、EVMウォレットをプライバシーマイニングのページで接続し、アノニミティ・セットに$ETHを入金するだけです。このプライバシー向上に貢献した対価として、参加者はネイティブトークンである$ITXを獲得します。

プライバシーマイニングの方法

ITXトークン

INTMAXでは、ネイティブトークンとして$ITXが発行され、プライバシーマイニングによって獲得することができます。

ITXトークンのユーティリティ

  • プライバシーマイニングの報酬
  • 予定されているユーティリティ:
    • プライベート取引への優先アクセス
    • コミュニティガバナンス
    • プライバシー重視のアプリケーションにおけるユーティリティ
    • 獲得した分配による希少トークン

ITXトークンのユーティリティと配布

$ITX は、発行上限が10億100万枚で、2,032日間のプライバシーマイニングによって発行上限に達します。その間に6回の半減期が発生します。

期間 開始日 終了日 日数 報酬/日 総報酬
1 2024/08/07 2024/08/23 16 8,937,500.0000 143,000,000
2 2024/08/23 2024/09/24 32 4,468,750.0000 143,000,000
3 2024/09/24 2024/11/27 64 2,234,375.0000 143,000,000
4 2024/11/27 2025/04/04 128 1,117,187.5000 143,000,000
5 2025/04/04 2025/12/16 256 558,593.7500 143,000,000
6 2025/12/16 2027/05/12 512 279,296.8750 143,000,000
7 2027/05/12 2030/03/01 1,024 139,648.4375 143,000,000
合計 2,032 1,001,000,000

Ethereumエコシステムへの貢献

INTMAXは、自らのエコシステムの発展だけでなく、Ethereum全体の持続的な成長にも貢献する姿勢を明確にしています。その象徴的な取り組みが、プロジェクトのトレジャリーが保有するITXトークンの1%を「Protocol Guild」へ寄付することです。

Protocol Guildは、Ethereumのコアプロトコルの研究開発を担う貢献者たちを経済的に支援するコレクティブです。INTMAXのようなレイヤー2ソリューションがその基盤とするレイヤー1を維持・発展させている人々へ還元することは、単なる慈善活動ではなく、自らの事業基盤の安定性と将来性に対する戦略的な投資と言えます。

INTMAXに関する情報

 

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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