2025年は、本格的に企業によるブロックチェーンの採用が前進した年でした。そのような状況下で需要が増したのはプライバシー技術でした。2026年はブロックチェーンにおけるプライバシー技術が本格的に普及する年であると言われています。本記事では、主要なプライバシー技術とともに、どのようなプライバシープロジェクトがあるかを解説していきます。
ブロックチェーンにおけるプライバシーとは?
ブロックチェーンにおけるプライバシーとは、これまで透明性があるがゆえに第三者に見えていた情報を見えなくすることを指します。例えば、プライバシー技術を使うことで、アカウントの残高やトランザクション内容(送金元、送金先、送金額など)を秘匿することができます。
また、ほとんどのプライバシープロジェクトでは、コンプライアンスに対応するためにこれらの情報を第三者に開示できる仕組みを設けています。情報開示の仕組みでは、閲覧鍵(ビューキー)を第三者に渡すことにより、秘匿されている情報の閲覧を可能にします。
主要なプライバシー技術
ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof: ZKP)
ゼロ知識証明(ZKP)は、中身を晒さずに正しいことを証明する技術です。大まかに、zk-SNARKsとzk-STARKsという方式が存在しており、プライバシー確保の文脈においてはzk-SNARKsを使うことが一般的です。ZKPの証明を生成する計算は非常に重いため、半導体の進化によって今になってやっと大規模採用が可能になりました。
ZKPを採用する代表的なプロジェクト
- Zcash $ZEC (解説記事):2016年からメインネットを継続するプロジェクト。基本的に送金のみであるが、レイヤー2の開発などユースケースを増やす試みが進行中。
- Aztec $AZTEC (解説記事):Ethereumのレイヤー2。RustをベースとしたNoir言語でスマートコントラクトを開発する。主にEthereumエコシステムに強み。
- Midnight $NIGHT (解説記事):Web2とWeb3の両方を視野に入れられた、TypeScriptベースのCompact言語でスマートコントラクトを開発できるレイヤー1。Cardanoのパートナーチェーンのフレームワークで構築されている。VCを入れない独自財源による運営。
- Aleo $ALEO (解説記事):独自のレイヤー1。RustをベースにしたLeo言語でスマートコントラクトを開発する。Web2とWeb3の両方を視野に入れている。過去に大規模な資金調達を実施。
- INTMAX $ITX (解説記事):送金に特化したEthereumのレイヤー2。ステートレスアーキテクチャにより高いトランザクション容量のインフラストラクチャを実現。
- Mina $MINA (解説記事):再帰ゼロ知識証明を使って22KBという証明サイズを維持しながら、過去に発生したすべてのトランザクションの証明を可能にするレイヤー1。TypeScriptベースの言語でzkAppsを実現できる。
完全準同型暗号(Fully Homomorphic Encryption: FHE)
完全準同型暗号(FHE)は、暗号化したデータを暗号化したまま計算するという技術です。計算過程に暗号化を解除するプロセスを挟まないため、機密性が守られます。機密性を守りつつも、コンポーザビリティが高いということがメリットです。一方で、暗号化したままの計算量やオーバーヘッドがあまりに膨大であり、まだまだ技術進化の余地があります。
FHEを採用する代表的なプロジェクト
- Zama $ZAMA (解説記事):Web3におけるプライバシーに特化。fhEVMにより、EVMアプリケーションのコードを簡単にプライバシー対応することが可能。SVMのプライバシー化も対応予定。
- Fhenix (解説記事):Ethereumのレイヤー2。Zamaと同様にfhEVMを採用することで、EVMアプリケーションの開発者を簡単に取り込むことができる。
信頼できる実行環境(Trusted Execution Environment: TEE)
信頼できる実行環境(TEE)は、ハードウェア内に用意された安全に計算ができる領域です。この領域は、システム管理者ですらアクセスできないため、第三者から暗号化を解除した状態を覗かれることはありません。そして、他の手段と比べて高速です。しかし、ハードウェアへの信頼を前提とした技術であり、ハードウェアの脆弱性の影響を受ける可能性があることから、TEEで機密性が100%保証されているのかを疑問視する見方もあります。
TEEを採用する代表的なプロジェクト
- Secret Network $SCRT:2020年9月からメインネットを稼働している、世界で初めてプライベートなスマートコントラクト実行を実現したプロジェクト。WASMで動作し、CosmWasmのフレームワークでスマートコントラクトを記述する。
- Oasis $ROSE:2022年12月からメインネットを稼働。EVM互換の独自のプライバシーレイヤーに加え、あらゆるEVMチェーンに対してのプライバシーレイヤーを提供している。
- TEN Protocol $TEN (解説記事):Ethereumのレイヤー2。EVMのアプリケーションの移植が容易であることが特徴。
マルチパーティ計算(Multi-Party Computation: MPC)
マルチパーティ計算(MPC)は、複数者で秘密を共有して計算する技術です。例えばウォレットに応用した場合、秘密鍵の断片を複数のノードで管理・署名することで、秘密鍵の全体はウォレットの所有者を含めて誰にもわからないという状態を実現することができます。
MPCを採用する代表的なプロジェクト
- Partisia Blockchain $MPC(解説記事):MPC分野ではリーディングカンパニーであるPartisia社により開発された分散型MPCネットワーク。独自のトークンをガスにして使える機能が搭載されている。
- Ika $IKA(解説記事):Sui上に展開された、高速な並列処理が可能な分散型MPCネットワーク。プロジェクト名がイカにかかわらずタコのモチーフを使ったプロジェクト画像は、漫画の「HUNTER X HUNTER」のキャラクター、イカルゴから着想。
ミキシング(Mixing)
ミキシングは、自分の暗号資産と他のユーザーの暗号資産をプール上で混ぜ合わせることによって、送信元アドレスと送信先アドレス間のオンチェーンリンクを切断する方法です。他の方式と比べると機密性の強度が低いため、既に主流の方法とはなっていません。
ミキシングを採用する代表的なプロジェクト
- Tornado Cash $TORN:主要EVMチェーン (Ethereum, BNB, Polygon PoSなど) でサービスが展開。プロジェクト的にはミキシングではないとしているが、界隈ではミキサーとしてみなされている。
- Dash $DASH:2014年1月から稼働を続けているレイヤー1。デフォルトのトランザクションは透明性があるが、CoinJoinを使ってミキシングすることによりプライバシーを確保する。
2026年は「実用的なプライバシー」の普及期へ
2025年の企業によるブロックチェーン採用の進展を受け、2026年はプライバシー技術が実験段階から本格普及へと移行する重要な年になると予測されます。本記事で紹介した通り、プライバシー技術は単なる隠蔽から、コンプライアンスや実用性を兼ね備えたインフラへと進化しています。
押さえておくべきは、多くのプロジェクトがコンプライアンス対応と開発者体験を重視している点です。 かつてのプライバシー技術は違法な取引の隠れ蓑という懸念を持たれがちでしたが、現在主流のプロジェクトはビューキーによる選択的開示機能を標準装備し、企業の監査や法規制に対応できる設計となっています。また、RustやTypeScriptといった一般的な言語や、Web3開発者に親しまれているSolidityで開発できる環境が整ったことで、Web2やWeb3の枠にとらわれない開発者の参入が可能になっています。
既に用途に合わせて適切な技術を選択できる時代が到来しており、2026年はこれらの技術を活用したアプリケーションが増えてくることでしょう。

