インタビュー

日本暗号資産市場株式会社 岡部典孝氏 – だいたい安定通貨ICBを利用した古物商の問題解決の取り組みについて訊く(前編)

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日本暗号資産市場株式会社の岡部典孝氏は、日本で初めて暗号資産古物商を設立し、日本円にペグしたステーブルコイン(以下、後述の理由により”だいたい安定通貨“と表記)のICHIBA COIN(ICB)を立ち上げた人物として知られています。

ブロックチェーン業界内で、日本は暗号資産の規制が特に厳しいと思われている中、岡部氏がどのような経緯でICBを発行して、広げていこうとしているのかをお訊きしました。またリモートワークが広がっていて、多くの企業が組織の管理に悩まされている中、どのようなポイントを押さえながら組織構築を行っているかも併せて取材しました。

本記事は前後編で構成されています。前編では、岡部氏が暗号資産古物商をはじめた経緯や、敢えてだいたい安定通貨と呼ぶこだわりの理由について伺っていきます。

日本暗号資産市場株式会社 岡部典孝氏 インタビュー 前編

岡部氏の自己紹介

加藤:ブロックチェーン業界は、まだ業界が浅いこともあり様々なバッググラウンドを持つ人たちが集まっています。岡部さんは、今までどのような活動をしてきて、何がきっかけでブロックチェーンを知り、今に至るのでしょうか?

岡部:私は大学の在学中に起業しました。はじめて起業したのがデジタルコインのプロジェクトでした。2000年頃に、ゲームのコインをドルと等価なデジタルコインに変えて、サーバー間で移動させて使えるようにすることをしていました。

今でいうドルペッグのステーブルコインです。ブロックチェーンは当時なかったので、データベース上で数字を扱った、中央集権型なオレオレステーブルコインでした。ただ、早すぎたこともあり、成功はしませんでした。その当時は、そのコインでTシャツを買えるようになっていました。

そこから方向転換をして、ポイントサイトのような、ポイントで人を動かすことを仕事にしていました。これは長かったです。その後は、ネットゲームのサーバーのコードを書いたり、ネットゲーム内の前払式支払手段のコードを書いたり、ゲームのプログラムを書くことが多かったです。

ゲームでは、位置情報ゲームのプログラマーをやっていました。それからIngress(イングレス)というゲームにハマって、2社目の起業につながりました。アルクコインを発行しているリアルワールドゲームスを共同創業し、歩いたらコインをもらえるProof of Walk(プルーフ・オブ・ウォーク)のアルクコインを設計して発行しました。そのコインでどうにかモノを買えるようにしたかったのです。

アルクコインがもらえる位置情報ゲーム「ビットにゃんたーず」

アルクコインがもらえる位置情報ゲーム「ビットにゃんたーず」

しかし、上場するのが大変そうだったので、じゃあ直接モノと交換できる場所を作ろうということで、暗号資産古物商という着想に至りました。古物商は警察の管轄なのですが、警察に照会をかけてみたら全面OKだったので、起業することにしました。

加藤:既に2000年頃にステーブルコインに取り組んでいたというのは興味深いですね。私は、まだ学生だったので、当時の決済手段というのはそれほど知らないのですが、記憶の限りだとウェブマネーが普及しはじめて、やっとオンラインペイメントが広がり始めたという時代でしたね。

岡部:そうですね。デジタルコインの生みの親と言われるデヴィッド・チャウムが既にデジタルキャッシュを出していました(筆者注:論文発表は1982年)。ですので、オンラインペイメントの着想自体は昔からあり、特に新しいというわけではありませんでした。

当時はちょうどネットゲームでウルティマオンラインが出始めていて、ゲームのコインが欲しいのでやるという人たちがいました。いま思えば、ブロックチェーンゲームと似た要素が当時にはありましたね。

当時は早すぎたわけでしたが、だからこそこうしてすんなりとブロックチェーンの世界に入ってこれたというのはあります。

加藤:うまく行かなかったものが、どうプラスに転じるかは、本当にわからないものですね。

岡部:まったくです。実は、2013年にビットコインについて非常に面白いなと思い、会社の事業にしようかと考えていた時期もありました。ですが、その時は位置情報ゲームに可能性を感じていたので、その時は残念ながらビットコインの方には行かなかったですね。そこが私の人生の分かれ目だったかもしれません(笑)

加藤:この業界で、早期にビットコインを知っても当時関わらなかった方は、みんな同じようなことを言いますね。

岡部:まったくですよ!10ドルくらいのときに持っておけば良かったと思います。

加藤:ちなみに、アルクコインの交換が難しいと感じたのは、具体的にどの点だったのでしょうか?

岡部:まずは上場して価格がついていないと、ユーザーはアルクコインの価値がわからないわけです。アルクコインは、だいたい1時間で1コインが手に入るような設計だったのですが、1時間で手に入れて、そのコインが10円なのか100円なのか誰もわからない状態でした。

当時は、私たちはコインの価格は取引所がつけると考えていました。取引所に上場できないので、オークションという方法を編み出しました。アルクコインTシャツというものを作って、それをアルクコインでオークションをしてもらって、アルクコインの最初の価格を付けました。

もう1つは、流動性が低いことです。当時はUniswapみたいなDEXが今のように流行っていなかったので、DEXを使うのは難しいということになりました。

実際のところ、コインを受け取る人と、コインを持っていて渡したい人の二重の欲求の一致をマッチさせるのはさらに難しいわけです。お店は円がほしいし、円がほしいのであれば両替しなければいけないので、交換業が必要になってしまいます。

一方で、古物商がお客様から商品をいただいてコインを渡すのは、決済手段だから実現できるのではないかと、当時から思っていました。

加藤:早速、岡部さんお得意の法律ハックがきましたね。

岡部:私はCTO歴が15年以上でエンジニア出身なのですが、CTOをやっていると新しいビジネスが法律上大丈夫かなということにぶち当たり続けてきました。そうすると、法律や税務を勉強し続けなくてはならなくなり、気がついたら詳しくなっていました。

加藤:そのような背景があったわけですね。ちょうど古物に関する話が出始めたので、次のテーマに進んでいきましょうか。

日本暗号資産市場の紹介

加藤:日本暗号資産市場株式会社は、日本国内初の暗号資産が利用できる古物商として話題になりました。会社の立ち上げ経緯を教えていただけますか?そこでは、現在はどのようなサービスを提供しているのでしょうか?

岡部:もともとは、警視庁を通じて警察庁に照会をかけたのがきっかけになります。警視庁は、最初は懐疑的だったのですが、警察庁に照会かけたら全面OKでした。それは口頭だったのですが、興味深いので行政文書開示請求をして、それをツイッターで公開したらかなり反響がありました。それをコインポストさんにも取り上げていただきました。

加藤:確かに、当時は随分とツイッターで話題になっていましたね。

岡部:これをきっかけに、暗号資産古物商をやりたいという人が他にでてきました。

私はもともと起業を考えていたので、これを本業でやっていこうと法人化しました。個人と法人の古物商免許は別なので、日本暗号資産市場を作ったのが2019年11月で、事務所を借りたのが2020年1月、そこから公証を申請して許可が取れたのが2月になります。また、警察庁の照会の結果、古物商だけではなく、古物市場主という取引所の資格も暗号資産でできることがわかったので、3月に古物市場主の資格もとりました。

早速営業しようと思っていた矢先に、ちょうど新型コロナの感染拡大があって、本格的な営業ができなくなりました。結果的に、最初に製品としてリリースしたのがオクリマというサービスになります。

加藤:ダンボールに売りたいものをまとめて詰めると、販売しているサービスのことですね。

岡部:そうですね。それまでのテストマーケティングで、発行体の暗号資産と中古品を取引するということをやっていいて、それは現在も継続しています。そして、一般向けにはオクリマというサービスを提供しています。あとは、古物市場主として古物商間の競りを行っています。

他には、ICBという“だいたい安定通貨”を発行して、モノが買えるサービスを提供しています。また、発行体が持っているトークンを受け取って、発行体に欲しいモノをお売りする商売もしています。

実は、暗号資産古物商は幅広く商売ができる資格なので、他の暗号資産古物商さんもそれぞれの得意分野で仕事をされていますね。

加藤:この中で私が気になったのがオクリマなのですが、岡部さんのツイッターを見ていたときに、若いエンジニアがスピード感をもってあっという間にリリースしたというのがとても印象でした。もしよろしければ、サービスの立ち上げの話を教えていただけますか?

岡部:当時、うちの会社ではもちろん暗号資産もやろうとしていたのですが、法定通貨でのモノの売買もやっていました。それがコロナで営業できなくなりそうでした。営業自粛要請の業種に古物商が入っていたからです。

3月の段階でそうなりそうなのが見えていたので、次に何をやろうかと考えていたところ、小野というエンジニアがメルカリを個人でやっていて、面倒くさいので箱でそのまま売ることができるサービスがあれば使いたいのだけれど、という話がありました。そこで、面白そうだからやってみようとなり、リリースすることにしました。

オクリマのサービス内容

オクリマのサービス内容

加藤:では、コロナがなかったらオクリマがなかったということですね。確かに箱にまとめてそのまま売れたら便利ですね。

岡部:そうですね。モノを捨てるくらいだったら使いたい人に使ってほしいと思っている人にとっては、メルカリで一品一品売って発送するというのは面倒すぎるわけです。そこに需要があると思って早速リリースしたわけですが、思ったより反響があり、AbemaTVにも取り上げられたので、出してよかったと思っています。

加藤:ここからは個人的な興味なのですが、売るためにわざわざ努力しても報われないモノの代表格は本だと思っています。でも捨てるのももったいないと。ですが、ブック●フに持って行っても、1冊10円程度にしかなりません。

そういうこともあり、どうしてこんなに重いものを、時間をかけて苦労して持っていったのに、二束三文にしかならないのだろうと思うことがよくありました。こういのをオクリマで売るとどんな感じになりますか?

岡部:オクリマでもそれほど値段が上がるとは限らないです。本だけを箱に詰めて送ると、よほど貴重な本が含まれていない限り、送料分でプラスマイナスゼロになる程度です。ですので、ゲーム機のようなものを入れて、空いたスペースに本を入れるのがよろしいと思います。

加藤:ちなみに、オクリマで扱えるモノは何ですか?何か制限はありますか?

岡部:基本的には、古物商という中古のプロが値段を付けられるものであれば扱うことができます。法律上で扱えないものは、医薬品のような許認可が必要なものになります。ブランド品もだいたい扱えますし、家電も扱うことができます。

▼オクリマはこちら

https://ocurima.com/

“だいたい安定通貨”という呼び名にこだわる理由

加藤:では、ここから“だいたい安定通貨”について訊いていきます。日本暗号資産市場では、日本円にペグするステーブルコインICHIBA COIN(ICB)を発行しました。ICBのホワイトペーパー上では、ステーブルコインのことを「だいたい安定通貨」と表現していますね。

ホワイトペーパーのあちこちに登場する「だいたい安定通貨」

ホワイトペーパーのあちこちに登場する「だいたい安定通貨」

加藤:これは、6月13日にブロックチェーン業界人注目イベントだった「ブロックチェーン用語を日本語にしてみる」で出てきた、ステーブルコイン呼び名の1つである「だいたい安定通貨」から来ていると思うのですが、ステーブルコインではなくて、敢えてだいたい安定通貨にこだわる理由とは何なのでしょうか?

岡部:そうですね、そこの仮想NISHI賞を受賞したステーブルコインの呼び名が秀逸でした。

加藤:私もあれは秀逸だなと思いました。

岡部:当時からICBの発行準備をしていて、金融庁とディスカッションをしていました。それで、だいたい安定通貨のことを話したら、結構ウケがよかったのです。少なくとも、担当者の個人的なウケが良かったというのがありまして「これはクスっとできる良いネーミングですね」という反応でした。

確かに、いわゆるステーブルコインという用語がありますが、そう表現してしまうと国際的な規制に巻き込まれてしまうというモノという印象が強くなります。ステーブルコインというのは、日本の法律上は3つほどあり、暗号資産型と前払式支払手段型、為替取引型があるなかで、全部一緒くたにされています。

我々は、ICBを図書カードみたいに商品券として売っているだけなので、価格を必ず1円にしなければいけないということはもともと思っていませんでした。完全なステーブルコインが0.999円から1.001円のような幅で連動するものだとすると、ICBはもう少し幅が広くてよいだろうと考えています。0.99から1.01くらいでも良いじゃないか。もっと余裕をみて、0.98から1.02でも良いじゃないかという、だいたいで良いよねという感覚が入っています。それが、この名前を貫き通している理由ですね。

加藤:1000円分の商品券でも、1000円ピッタリで売られていないこともありますし、チケットショップを見ると若干安く売られていることが多いので、その感覚に近いのですね。

岡部:そうなんですよ。ギフト券や図書カードが良い例で、中古のチケットショップに持っていったら970円程度で買ってくれて、980から990円で売ってますね。だいたい安定しているんですよ(笑)

加藤:たしかに、だいたい安定していますね(笑)ちなみに、この表現が出たときにツイッター界隈が反応したように見えましたが、どのような反応がありましたか?

岡部:好意的な意見が多かったです。「だいたいなんですね」と(笑)価格を1円に安定させることから逃げているという意見もありました。そもそも1円にずっとロックしようという考え方はとっていなかったので、最初からだいたいと思って出しているので、それで良いのかなと言う感覚です。

ICHIBA COIN(ICB)の紹介

加藤:ここからは、ICHIBA COIN(ICB)について伺っていきます。ICBは、日本円に連動するだいたい安定通貨ですが、発行するに至る背景を教えていただけますか?主にどのような用途で使い、どのようなものを目指しているのでしょうか?

岡部:私たちは、もともとは古物市場という取引所をやっていました。取引所というとIT化が進んでいる印象なのですが、多くの古物市場は70歳以上のおじいさんが市場主をやっているような場所になります。そのため、IT化がすごく遅れていて、今でもニコニコ現金払いが決済手段の主流になります。そのような状況なので、大手の古物商は数百万円の現金を持って古物市場に仕入れにいって、支払って帰ってきます。当然ながら、防犯上よろしくないです。

加藤:現金を持ち歩く側からしたら、犯罪に巻き込まれるリスクが増えるのは怖いですね。

岡部:また、副次的な問題としては、従業員にお金を渡せないことです。500万円持たせて仕入れに行ってこいとは言えないわけです。

加藤:くすねられそうな感じがしますね。

岡部:くすねられてもおかしくないです。では、実際に何をやっているのかというと、年商数億の古物商が今でも自ら仕入れに行っています。キャッシュレスが進んでいないから任せられないと。だから、これだとビジネスがスケールをしない、現金払いがボトルネックになっているというのは、市場をやっていて明らかでした。

このような状況なので、キャッシュレスを進めていきたいとなるわけですが、PayPayやクレジットカード決済を導入したとしても、市場でもらえる手数料が取引所だからそれほど多くありません。最大で10%、薄いと5%、場合によって金だと2%になります。そこに決済手数料を3%払ったら赤字になってしまいます。それこそがキャッシュレス決済が進まない理由です。そのため、ブロックチェーンの技術を使って、送金や仕入れで使える前払式支払手段があれば良いなと思っていました。

また、もう1つ感じていたことは、モノが買えるコインがほとんどないということでした。現状では、ビックカメラでビットコインを使った買い物ができるくらいで、非常に限られたところになります。そうなると、普及が進まず税制が不利なままで、なかなか状況が良くなりません。ですので、あらゆるコインをお店で使えるようにしたいという想いがありました。

うちは古物商として法人に金券もお売りするので、法人が持っている“なんとかコイン”でもお受けしたいなと思っていました。うちが全部のコインをデューデリするのは現実的ではないので、うちはICBで受け取るようにすれば、なんとかコインをお持ちの方はICBに替えるだけで、モノを買える目的を達成できるのではないかと考えました。そういう意味で、色々なコインのホルダーや発行体にとってこれは意味があるなと思って、いまのICBの企画に至りました。

ICBは、法律上は前払式支払手段になります。私は、以前からハブになるような前払式支払手段ができると面白そうだと思っていました。仮にICBが暗号資産だとしたら、暗号資産と何とかコインを交換すると交換業が必要になります。これだと、非常にハードルが高くなります。ICBが前払式支払手段だと交換業がいらなくなります。それだけでも需要があると感じています。

加藤:法律の制約をうまくハックしたような内容に感じます。

岡部:別に法律をハックしようとして作ったというよりも、課題を解決しようと思ったら法律の問題ぶち当たるということは起業して今までも何十回もありました。それらは、行政とやりとりして乗り越えてきました。そのスキルが今回も役に立っています。

後編の予告

前編では、今まで岡部氏が日本暗号資産市場を立ち上げた経緯について見ていきました。

後編では、ICBを普及させるための取り組みや、1円にだいたい安定させるための裏側、そしてだいたい安定通貨を発行する際の法律上気をつけるポイントを伺っていきます。また、併せてユニークな組織構築についても訊いていきます。

▼後編

日本暗号資産市場株式会社 岡部典孝氏 - だいたい安定通貨ICBを利用した古物商の問題解決の取り組みについて訊く(後編)
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日本暗号資産市場に関する情報

日本暗号資産市場 公式サイト

オクリマ 公式サイト

ICHIBA COIN 公式サイト

岡部典孝氏SNS(TwitterFacebook

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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