インタビュー

日本暗号資産市場株式会社 岡部典孝氏 – だいたい安定通貨ICBを利用した古物商の問題解決の取り組みについて訊く(後編)

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日本暗号資産市場株式会社の岡部典孝氏は、日本で初めて暗号資産古物商を設立し、日本円にペグしたステーブルコイン(以下、後述の理由により”だいたい安定通貨“と表記)のICHIBA COIN(ICB)を立ち上げた人物として知られています。

ブロックチェーン業界内で、日本は暗号資産の規制が特に厳しいと思われている中、岡部氏がどのような経緯でICBを発行して、広げていこうとしているのかをお訊きしました。またリモートワークが広がっていて、多くの企業が組織の管理に悩まされている中、どのようなポイントを押さえながら組織構築を行っているかも併せて取材しました。

本記事は前後編で構成されています。後編では、引き続きICBについて広げていくためのアイデアや、法律的なポイント。そして、ユニークなアイデアを持つ岡部氏ならではの組織構築の考えについて伺っていきます。

前編がまだの方は、まずは以下の記事をご覧ください。

日本暗号資産市場株式会社 岡部典孝氏 - だいたい安定通貨ICBを利用した古物商の問題解決の取り組みについて訊く(前編)
日本暗号資産市場株式会社の岡部典孝氏は、日本で初めて暗号資産古物商を設立し、日本円にペグしたステーブルコイン(以下、後述の理由により”だいたい安定通貨“と表記)のICHIBA COIN(ICB)を立ち上げた人物として知られています。 ブロッ...

日本暗号資産市場株式会社 岡部典孝氏 インタビュー 後編

ICHIBA COIN(ICB)を普及させるために

加藤:古物商は昔からある業界であるため、古くからの商習慣を持っているように感じられます。先程の岡部さんからもあったように、高齢な方が多い業界ということもあるので、私自身はこれらの層にICBという新しいものを受入れてもらうにはハードルが高いようにも感じています。

当初は、ICBを古物商の決済手段として想定しているようですが、彼らに使ってもらうためにどのような活動をしていく予定になりますか?

岡部:もちろん、ほとんどの古物商が今でも現金で取引をしているので、引き続き現金での決済も受け付けていきます。ICBで決済をしてくれた方は、私たちからみるとお得意様になりますので、その方々には無償ポイントをつけようと思っています。それがERC20であれば色々交換することもできますし、法律的には無償ポイントだけれども、暗号資産のように価格が上がるということも設計できるので、そのようなインセンティブがうまく働ければ良いなと思っています。

今の段階では、ICBではなくても現金で持って来れば良いので、ご年配のITリテラシーが高くない方は現金を使っていただければ大丈夫です。また、古物商の代替わりが進んでいるので、若い方がICBを使う流れも考えられます。

私たちは、ICBで決済をしたほうが、他よりお得になり仕入れが有利になるようにします。そこは差別化しても良いと思っています。まずは、使い方から使ってください、先に使った方はたくさんおまけのポイントが使えますというところからスタートしていきます。

加藤:ポイントについて、現時点で何か具体的な構想はあるのですか?

岡部:今考えているのは、お得意様の還元セールで、ポイントをたくさん持っている人だけ参加できる市場や、ポイントを多く持っている人だけ買える福袋を用意しようと思っています。コインじゃないと限定品が買えないという形にすると、レア感が出てきて、皆さんが使おうとしてくれるかなと思います。

加藤:ICBというのはまだ出始めたばかりですが、Etherscanを見ると複数名が保有していることがわかります。そのような方々は、新しいものが好きで未来を感じているのではないかと思われるのですが、彼らはICBの何に期待しているのでしょうか?

岡部:具体的に彼らと話しているとは限らないので、正直ニーズが掴みきれていない部分があります。あり得るのは、前払式支払手段を買って、Uniswapなどに流動性供給をしようとしているのではないかということです。

EtherscanによるICBの取引履歴。Uniswapの利用が目立つ。

EtherscanによるICBの取引履歴:岡部氏の予想通りUniswapの利用が目立つ

図書カードを持って、そのまま金庫に入れていても増えないですけれども、ICBの場合はERC20なのでDeFiとつながる可能性があって、実験道具として買っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ICBは1万円から販売しているのですが、1万円で購入している方はそういう方かなと考えています。古物商だともっと多くのお金を動かしますから。

加藤:もう1つお聞かせください。ここでICBの発行に使っているイーサリアムチェーンの状況に注目しておきたいのですが、現状は決済手数料(GAS代)がとても高くなっています。それについて、率直にどう思っているでしょうか?もし解決策があれば教えてください。

2020年9月10日時点 ICBを送金するだけで2.35 USD程度のGAS代がかかってしまう

2020年9月10日時点 ICBを送金するだけで2.35 USD程度のGAS代がかかってしまう

岡部:現在だと1万ICBを持っていて、1万円のモノを買おうとすると、手数料を数百円払うことになり、これは誰も得をしないです。クレジットカードの方が安くなります。一方で、Mac bookを買って20万円ですとなった場合、利用はありえるかなと思っています。ですので、ある程度高いものを業者が仕入れるというとき以外は、現状のGAS代だとICBは決済に使いにくいものになってしまいます。

解決策としては、Plasmaなどのレイヤー2には期待していて、安く送金できるのが1つの解だと思っていますし、もちろんイーサリアム2.0には期待しています。

あとは、別のチェーンを副次的に使うこともあり得ると思っています。イーサリアムを使うと、ICBをDeFiに使えるというメリットもあるのですが、ただ単に安い決済手数料で使いたいという目的であれば、他のチェーンでも良いと思っています。

加藤:手数料の話は、聞いていてもどかしいですね。ICBの取り組みが始まった当初は、まだGAS代は1回の送金で10円もいかない時期でしたが、今はその100倍になることもありますから。

岡部:そうなんですよ!ICBを準備していた時は10円程度の感覚だったのですけどね・・・。そこはうちの会社だけで解決できる問題ではないので、サイドチェーンをやっているプロジェクトさんやブロックチェーン企業さんとの連携になっていくでしょうね。

ICHIBA COIN(ICB)をだいたい1円に安定させる方法

加藤:だいたい安定通貨は、価格をだいたいに安定させるためのオペレーションが必要になりますが、「1 ICB = だいたい1 円」にするためには、具体的にどのようなオペレーションをするのでしょうか?また無担保型のだいたい安定通貨だからこそ、価格を安定させるために気をつけている点はありますか?

岡部:まず価格がICBの価格が1円を上回っているときです。上回るケースとしては、何かのコインをICBに替える場合は、Uniswapで価格が上昇するようになります。1円を越えた場合、基本的にうちは何もしません。

何もしなくて安定するのかという話なのですが、うちの会社は常に1 ICB = 1円で売り続けています。また、裁定取引をする人が出てきて価格が1円まで下がってくるだろうと思っています。こちらは比較的簡単なオペレーションだと思います。

問題は、ICBの価格が1円を下回っているときです。当然うちの会社が倒産するカウンターパーティリスクもありますので、うちの会社の信頼性が高くない場合は1円を下回る可能性があります。

その場合に関しては、まずうちの会社が1円の商品を売り続けるが大事になります。例えば、顧客がICBを0.95円で入手して、うちの会社で1円の収入印紙を買うとします。うちは収入印紙を1円 = 1 ICBで販売するので、顧客はその時点で利益になります。結果的にそれで裁定取引が行われ、少しはICBの価格が上がる方向に行きます。しかし、0.96から0.97円にしかならない可能性はあります。

まとめると、オペレーションの1つ目は、客から注文を受けたらモノをきちんと売るということです。2つ目は、うちも他の同じような前払式支払手段をこれから持つようになるので、Uniswapをつかって、その持ったものでICBを買いにいくということです。前払式支払手段同士の交換や、ERC20同士の交換を利用して、価格を0.99円くらいまでは交換して買っても良いと思っています。一番良いのはETHを使ってICBを買っていけることですね。そこが法律的に問題ないかは、金融庁に確認をとっています。

もう1つの方法としては、無担保型と言いながらも結局担保が必要という話になったら、供託や信託をして、1円を上回る程度まで、ある程度の財産を預けるということもあると考えています。そのあたりの組み合わせにより、だいたい1円に安定させていきます。

加藤:ある程度価格が安定するという既成事実がでてくると、市場はレートが固定されていると信じ始めるでしょうから、そうなるとオペレーションがやりやすくなっていくでしょうね。

岡部:そうですね。2次流通価格が安定するようにという意味で、最初は敢えて1000万円という少額で発行して、きちんと価格が上がるかテストマーケティングしている段階です。安定していないと、大きな資金が入ってこないと思っています。実際に、多くの人は安定しているのを見てから使うでしょうから。

ICBの発行予定 ホワイトペーパーより

ICBの発行予定 ホワイトペーパーより

日本の法律に合わせるポイント

加藤:ICBは、日本の法律に準拠して発行されているため前払式支払手段(ポイント扱い)となっています。発行にあたり法律面に苦戦したエピソードはありますか?また、これから日本国内でだいたい安定通貨を発行しようとしている組織に対して何かアドバイスできることがあったら教えていただけますか?

岡部:法律面では、資金決済法が前払式支払手段を規制する法律になりますが、事業者用というスキームにしたことで適用が除外されています。ですので、前払式支払手段という意味では法律面で苦戦したエピソードはありません。金融庁に事業者用ですと説明できればそれで良かったのです。

そして、金融庁から懸念として出していたのは、前払式支払手段だとしても、払い戻しをすると為替になる可能性があるという意見でした。

私たちは、払い戻しはもともとやらない予定だったのですが、払い戻しをすると別の法律、為替取引で資金移動業という問題がでてきます。ですので、払い戻しについては慎重に金融庁や弁護士と相談することをお勧めします。払い戻ししたほうが価格は安定しますし、色々ユーザーにとってメリットしかないと思いますが、法律的には不安定さが増します。

例えば、払い戻しができると、1円で預けて1円で払い戻しが受けられるのであれば「それは預金じゃないの?」だとか、1円で預けて他の人に渡したら「それは為替じゃないの?」という話が出てきます。ですので、そちらの方に気をつけて発行するのが望ましいです。

また、適用除外じゃない一般ユーザーが使えるプリペイドの場合は、1000万円を越えたら自家発行の場合でも登録をしないといけないという規制がありますので、やはり発行の前に金融庁や弁護士には相談したほうが良いと思います。

だいたい安定通貨は誰でも発行できるものですが、法律に知らないで違反して摘発されてしまうと、風評被害にもつながるので、そこは法律に準拠して各自の責任のもと発行するのがよいのではと思います。

これからは、少額の資金移動業は比較的取りやすくなるので、当然そのようなスキームを考えて払い戻しを考える会社さんがこれから出てくるのかもしれません。ただ、だいたい安定通貨は初めて切り開く分野なので、一定の話し合いが必要になります。そこをスキップすると、あとになって金融庁から問い合わせが来る可能性があるかもしれないですね。

加藤:考慮すべきものは少なくないということですね。

岡部:金融庁にとっては、現在ステーブルコインを取り締まる特別な法律があるわけではないので、暗号資産であれば暗号資産交換業を取ればよいし、前払式支払手段であれば登録してください、届出してください、適用除外かを確認しますという話だし、為替をやるのであれば資金移動業をとってくださいということになります。

スタートアップがこのようなものを発行しようとしている場合は、今の法律でどうかというのは最低限として、このあと法律がどのように改正されそうだとか、そのような部分について業界全体で一緒に取り組んでいくことが重要です。同じようなことをやっている発行体と団体を作って、規制について提言することを当局に向けてやっていきたいと思っています。

加藤:まだまだやることはたくさんあるわけですね。

岡部:そうですね。一度ICBを世に出すことによって、議論のたたき台はできたと思います。大手企業はいきなりやるのがすごいリスクだと思うのですが、うちがやってできているのであればチャレンジしやすくなると思うので、これからステーブルコインへの参入は増えてくるのではないでしょうか。

多様性のある組織

加藤:ここからは、ICBから離れた話題についてお訊かせください。日本暗号資産市場株式会社の求人などを拝見すると、組織構成が多様だなと感じます。いま取材中の事務所を見渡しても若い方が多いなと感じます。これは、あまり他社には見られないですね。岡部さんは、どのような考えで組織を構築しているのでしょうか?

岡部:私自身はずっとスタートアップで取締役以上をやってきたのですが、どうしても会社はトップダウンになってしまいます。小さい間は良いのですが、会社が大きくなってくると、自律的に動ける中間の人が減ってくるため、そこで成長が止まりやすいという問題がありました。

一方で、世界最先端の組織を研究すると、いかに権限移譲して自律分散的に、上司の許可を取らないでパーミッションレスで動けるかというのを重視していて、これはブロックチェーンに近いよなと思っていました。

ブロックチェーンでは誰の許可もなくコインを発行できたり送金できたりする側面があって、我々はブロックチェーン技術を使うスタートアップとして、そういう文化に馴染む人が集まってきそうだし、そういう文化にしようと思って、最初から自律分散型の組織を作りました。

前職のときにIngressというゲームにすごくハマっていたのですが、そのときに自律分散型の組織がすごく強かったのです。Ingressは、チームで場所取りをするゲームなのですが、いちいち誰かに指示を仰いでいたらスピードが遅くて負けてしまいます。なので、自分でバンバンできて活躍できる組織が強かったので、そこにチャンスがあるなと思っていました。

意思決定スピードを重視するとなると、必然的に意思決定できる人を育てる必要が出てきます。このような人のことを、うちだと現場指揮官と呼んでいるのですが、彼らにほぼ全権を委任しています。

そういう人を集めようとしたところ、逆に従来の組織になじまなかった層が入り、結果的に大学生や高校生がしっくり来ました。そういう人たちがどんどん集まってきて、そこからのリファーラル採用で優秀な人が集まってきました。

今はアルバイトを入れると二十数名いて、その多くがリモートワークです。中には、地方で働いている人もいます。そうなると、当然管理はしきれなくなるので、最初から組織を自律分散型にしてしまって、自分の判断で動いてもらっています。この仕組みは、比較的回っています。

加藤:面白いですね。Ingressとブロックチェーンから着想を得た組織構成だったのですね。もう一つ質問を足したいのですが、最近はリモートワークということがよく言われていますが、そうなると人の管理というトピックがよく出てきます。岡部さんの会社はそこが回っているなと言う印象があって、権限移譲の他に、何か意識しているマネジメントのポイントがあれば教えていただけますか?

岡部:うちでは、現場指揮官やその下にいるプランニングをする人が、現場状況を共有する文書を必ず書くというルールになっています。現状報告書というのですけれども「今こういうことがあって、こういうことをやろうとしています」というのを、社内に全部公開するようにしています。そのようなものがないと、他のチームが何やっているのかがよくわからないということがあって、重複タスクや無駄なことが発生してしまいます。

そのため、「うちはこういうチームで、今こういうのが足りなくて、こういうことをやっているのだけれども、これを手伝ってください」というのをわかりやすいように情報公開して、組織間で円滑にコミュニケーションが行われるように促しています。ツールでは、Slackを活用して、いいねを押すといった感じに。そういう文化を大事にして醸成しています。

加藤:ツイッターを見ると、確か岡部さんの会社はSlackで個別メッセージ(DM)禁止とありましたね。

岡部:うちはいまDM禁止としています。そこは賛否両論があるみたいなのですが、うちは皆に自分がこういうことをやっていると出せないと、情報がなくて自律的に動けなくなってしまいます。そのため、基本的にDM禁止というルールにしています。マイナンバーのようなプライバシー情報は例外的にDMにしていますが、法律でまずいもの以外は基本的にオープンにしています。

加藤:他の会社にも使えそうな話ですね。

意気込み

加藤:最後に、読者に向けて今後の意気込みをよろしくお願いします。

岡部:ICBは一つの道具だと思っていて、DeFiやブロックチェーンのエコシステムの1つのパーツにしか過ぎないと思っています。いろいろな方がICBを参考にしていただいて、自分のビジネスに役立てていただければと思っています。自分でコインを発行するのは今だったら簡単にできますし、それを何かと組み合わせたら今までできなかったことができるようになるということが、きっと色々とあると思っています。

もし、何か一緒にやりたいとか、こういうことができるか相談したいというのがあれば、ぜひお気軽にメッセージをください。お話いただけると私もすごく刺激になると思います。そういった意味でも、今回の取材をきっかけに興味を持った方がいらっしゃいましたら、気軽にTwitterのDMかFacebookのメッセンジャーで連絡をいただけると嬉しいです。

日本暗号資産市場に関する情報

日本暗号資産市場 公式サイト

オクリマ 公式サイト

ICHIBA COIN 公式サイト

岡部典孝氏SNS(TwitterFacebook

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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