2020年は、ICO全盛期に資金調達した堅実なプロジェクトが力を付け、次々とメインネットをローンチさせています。
Cypheriumは、日本では余り知られていないものの、非常に堅実なプロジェクトとして黒船のような立ち位置で見る人も存在しています。
本記事では、Cypheriumがどのようなプロジェクトかをご紹介しています。
Cypheriumの概要
Cypheriumは、金融や企業用途に注力したブロックチェーンプラットフォームです。CEOのSky Guo氏率いる世界のトップ大学を卒業したメンバーと、金融やブロックチェーン業界の経験豊かなアドバイザー陣によりプロジェクトが運営されています。
Cypheriumがターゲットとする金融市場は、時価総額が37兆ドルに達するとみられている中央銀行デジタル通貨(CBDC)です。これは、決して夢見がちな話ではなく、既にその主要技術が中国のCBDCに採用され、実績をあげています。
2020年9月27日時点では、Cypheriumのメインネットはローンチされておらず、2020年中のローンチを予定しています。一方で、企業分野では、主要クラウド企業のサービスでCypheriumのBaaS(Blockchain as a Service)が利用できる体制が整っており、既にGoogle Cloudと米Randstad社と共同でユースケースを創出しています。
当然のことながら、Cypheriumは金融に耐える性能を有している他、金融機関間の電子データ交換に関するISO標準にも準拠しており、既存の金融システムに組み込みやすい技術仕様になっています。
Cypheriumの特徴
ビジネス実績が豊富
Cypheriumは、既に数々のビジネス実績を積み上げています。
企業分野
企業分野にブロックチェーンを普及させるためには、いかに企業が使えるようにしていくかという点が重要になります。その代表例が、ブロックチェーンのクラウドBaaS(Blockchain as a Service)の提供になります。
Cypheriumでは、既にGoogle Cloud, Microsoft Azure, Amazon AWS, IBM Cloud Showcaseとパートナーシップ締結を行い、既にCypheriumにアクセスできる状況が出来上がっています。これらのクラウドサービス事業者だけで、クラウドサービスの世界シェアの大半を占めているため、多くの企業がCypheriumにアクセスできるようになることを意味しています。
また、Cypheriumは、Google Cloudと共同で米国のRandstad社と共同でユースケースの創出を行っています。Randstad社は、4万人の従業員を抱えるHR企業であり、求職者と雇用主のマッチングを行っています。日本でいうリクルートのような立ち位置の企業になります。
当然ながら、求職者の情報には正確性が求められられるため、求職者から提出された情報は検証されることになります。検証の対象には、学歴や資格、生年月日や住所などの情報が含まれ、いずれもプライバシー性が高いものになります。従来はこれらを手作業で行っていたため、個人情報漏洩のリスクを抱えつつ、非効率になっていました。
Randstad社のユースケースでは、Cypheriumで構築されたスマートコントラクトを利用し、求職者の個人情報のプライバシーを確保したまま、自動で検証が実行される仕組みが確立されました。その他、即時支払いや人材の受け入れ、退職をスマートコントラクトを通して円滑に処理できる仕組みも作られています。
金融分野
Cypheriumの金融分野における特筆すべき点は、CBDCへの取り組みを行っていることです。CBDCにブロックチェーンを使うことで、その内容を透明化することは可能ですが、すべてを透明化するのは実用化の観点では現実的ではありません。そのため、CBDCでは一定のプライバシーを確保する必要があります。
そこで、Cypheriumでは、中国のCDBCに分散型ID認証の技術を提供し、犯罪やテロに対抗するための実用的な匿名性と検索可能なKYCを実現しました。また、DCIF(デジタル通貨相互運用性フレームワーク)により、他のCBDCやデジタル通貨とのクロスチェーンに対応できるようにしています。
CypheriumのCBDCに関する活動は、中国に留まらず米国FRBのFaster Payments Councilのセキュリティ・ワークグループのメンバーとして活動している他、オランダ中央銀行や欧州中央銀行、フランス銀行とのラウンドテーブルを設けており、他国のCBDCにサービスを統合することを目指しています。

オランダ中央銀行や欧州中央銀行、フランス銀行とのラウンドテーブルの様子
金融に耐える性能や機能を確保
高い基本性能
Cypheriumは、企業のビジネス活動や金融に使われることを前提としているため、高い基本性能を誇っています。メインネットではトランザクション速度が10,000TPS以上になり、0.1 USD未満の手数料で即時ファイナリティが実現できるようになっています。
一般的には高いスケーラビリティを確保するためには、ノードを減らして集中型にする必要があり、その分だけ台帳の改ざん攻撃を受けやすくなることに繋がります。しかし、Cypheriumではノードを分散させつつも、高いスケーラビリティとセキュリティを実現します。
CypheriumはProof of Workによるブロックを生成する担当者を選出し、担当者はコンセンサスアルゴリズムのCypherBFTを使いトランザクションデータを検証します。CypherBFTは、LibraBFTの元にもなっているHotStuffがべースになっています。これにより、分散化を保ちつつ、完全にパーミッションレスな状態でトランザクションを承認することができるようになります。LibraとCypheriumの比較は、以下の通りになります。
項目 | Cypherium | Libra |
---|---|---|
チェーン形態 | デュアルチェーン | シングルチェーン |
ネットワークへの参加 | 許可不要 | 認証が必要 |
用途 | 一般目的のスマートコントラクト プラットフォーム |
支払いネットワーク |
スマート コントラクト言語 |
Java, Python, Ruby, R | Move |
プライバシー | 匿名と実名 | 実名のみ |
ガバナンス | P2Pネットワークによる | Libra協会による |
金融向けのツールを準備
Cypheriumでは、金融向けのツールとしてDCIF(デジタル通貨相互運用性フレームワーク)を用意しています。DCIFには4つのツールが搭載されています。
- CypherLink:台帳間をつなぐためのフレームワーク
- Cypherium Connect:銀行システム向けのサードパーティプラグインモジュール
- Cypherium Validator:検証マシン
- Cypherium ID:分散型ID認証システム

DCIFを使った銀行やCDBCとの接続例
CypherLinkは、ブロックチェーンのほか銀行内部の元帳のような台帳が接続する機能になります。分断された台帳を相互接続し、異なるシステム間でシームレスな決済ができるようにします。
Cypherium Connectは、銀行システムでCypheriumの支払いトランザクションを処理するプラグインモジュールになります。送金銀行と受取銀行の間で、KYC / AML、リスク管理情報、手数料、為替レート、その他の支払い関連情報を交換するための情報チャネルを確立します。
Cypherium Validatorは、トランザクションが中央銀行やブロックチェーン台帳システムに入る前に、検証する役割を担います。
Cypherium IDは、分散型ID認証システムです。個人情報をユーザー自身が保有することを実現し、単一障害点がない高い攻撃耐性を獲得することができます。WC3が推進する標準規格であるDIDを含む、オープンIDプロトコルを取り入れることができるようになっています。
これらのツールは、金融機関向けの電子データ交換の標準規格であるISO 20022に準拠しています。そのため、金融機関は従来のシステムとCypheriumとの統合を容易に実施できるようになっています。
Cypheriumのコイン CPH
Cypheriumのネットワークでは、通貨としてCypheriumトークン(CPH)を使用することになります。イーサリアムのETHと同様に、スマートコントラクトの実行やトランザクションの記録に関わるノードに対して支払うことになります。
トークンは、総発行量が 8,400,000,000 CPH で、うち19%がマイナー分の割当てになっており、10年かけて発行されます。内訳は、以下の通りとなります。
割り当て | 金額(CPH) | 総供給量の% | 発行 |
---|---|---|---|
ラウンド1先行販売 | 400,000,000 | 5% | メインネットの立ち上げ時に配分 |
パブリックセール | 300,000,000 | 4% | メインネットの立ち上げ時に配分 |
パートナーと最終プレセール | 200,000,000 | 2% | メインネットの立ち上げ時に配分 |
チームリザーブ | 1,848,000,000 | 22% | メインネット展開時の2年間の権利確定 |
マーケティング | 672,000,000 | 8% | 必要な使用を除いて、権利確定 |
オペレーション | 1,008,000,000 | 12% | 必要な使用を除いて、権利確定 |
将来の使用のためのリザーブ | 2,400,000,000 | 28% | 必要な使用を除いて、権利確定 |
マイナー | 1,600,000,000 | 19% | 10年以上に配分され、5%のインフレ率 |
総供給量(10年経過) | 8,400,000,000 | 100% | 900,000,000CPHの初期メインネット供給 |
ロードマップ
Cyphereiumの最も大きなイベントの1つに、メインネットのローンチがあります。メインネットは、2020年9月27日時点でリリースされておらず、2020年内に実施されることになります。