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Hedera Hashgraph ミアン・サミ氏 インタビュー 第1部 – 氏の覚悟とHedera Hashgraphの高次元なトリレンマ

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ブロックチェーンをはじめとする多くの分散型台帳は、ベンチャーコミュニティからDAppsが出ていき、次第に広まっていきます。一方で、Hedera Hashgraph(ヘデラ・ハッシュグラフ)は、暗号資産HBARを持ちながらも、全く逆となる大企業からの普及を狙っています。

今回は、Hedera Hashgraphのアジア統括責任者であるミアン・サミ氏にインタビューを行い、Hedera Hashgraphがどのように大企業に向けて分散型台帳を普及させていこうとしているのかを紐解いていきます。

本インタビューは全4部で構成されています。第1部では、ミアン氏の自己紹介を踏まえつつ、Hedera Hashgraphがどのような技術で構成されているのかに注目していきます。

第1部 氏の覚悟とHedera Hashgraphの高次元なトリレンマ

ミアン・サミ氏の自己紹介

加藤:はじめにミアン・サミさんの簡単な自己紹介をお願いします。今までどのような活動をしてきて、Hedera Hashgraphではどのような活動を行っていますか?

ミアン:私自身は、日本生まれの日本育ちです。大学を卒業してからすぐに金融の世界に行きました。シティグループの日本とロンドンで働き、その後ヘッジファンドやドイツ証券に行ったりと、17年間伝統的な金融の世界にいました。

2008年にリーマンショックが起きた当時はロンドンにいたのですが、金融危機が起きたのはお前らのせいだと言われ、タクシーから降ろされたことが何度かありました。その時にあることに気が付きました。金融危機の発端は金融リテラシーの格差からくるものだと。そして、金融危機がある度にリテラシーがない人は貧しくなり、リテラシーを持っている人は裕福になって、格差は広がり続ける悪循環が起こっていることに。当時私はとにかくお金を稼げれば良いと思っていたのですが、その時から金融の知識を広めるということを考えるようになりました。

私は、世界のほとんどの問題はファイナンシャルリテラシーの格差によって生まれると思っています。今では本を3冊出版したりと、自分の活動の多くがお金に関する格差を埋めることになっています。その過程がビジネスにつながれば良いと思っており、社会貢献をしながら儲けるというソーシャルビジネス的な考えに転換しました。

ミアン:実は、これがブロックチェーンをはじめとする分散型台帳に関わってきます。なぜならば、分散型台帳は、お金だけではなく、世界にあるすべての価値交換を担うプラットフォームだからです。究極的に言えば、今後はファイナンシャルリテラシーだけではく、バリュー(価値)リテラシーが必要になってきます。

私のファイナンシャルリテラシーの格差を埋めるという使命感として、次世代に分散型台帳の知識について伝えなかったら、取り残される世代がより多くのなるのでないかと思っています。これからの日本経済に対して、どのような知識を広めなければいけないかというと、この分散型台帳という「とっつき難くて奥が深いところ」だと思っています。学校で株の話すら教えてくれないのに、国内では「暗号資産で胡散臭いと思われている分散型台帳」なんてましてや教わらないわけです。残念ながら、次世代が分散型台帳を理解できないと世界から取り残されてしまうと感じています。

私がHedera Hashgaraphに入ったきっかけは、2016年にドイツ証券を辞めたときにブロックチェーンについて色々学びはじめたことです。伝統的な金融から来ている自分にとって、ビットコインやイーサリアムは普及しないと思っていました。仕組みがスケーラブルではないからです。私の金融時代は、1人で6000億円のポートフォリオを抱えていたのですが、ブロックチェーンを使ってトレーディングすると、ファイナリティやコスト、速度など、様々な分野で無理があります。では、ブロックチェーンの代わりの技術がないかと調べていたら、たまたまYouTubeでHedera Hashgraphが解説されていて、これはブロックチェーンの問題を全部解決するなと思いました。これは2017年の終わり頃の話です。

そして、2018年3月に、日本のとある場所で投資家向けのロードショーがありました。その時、私は長いテーブルの真ん中に座っていたのですが、同じく真ん中に座っている人とブロックチェーンについて議論をしていたら、その人がたまたまHedera HashgraphのマンスCEOでした。

加藤:それはすごい偶然です!

ミアン:その当時、私はHedera Hashgraphに関してはそれなりに勉強していましたが、いつもビデオに出ているのは共同創業者のリーモン博士で、マンスCEOは出てきませんでした。ですので、知らなかったのです。

そして、その場で盛り上がり、私は投資家としてHedera Hashgraphに投資をしました。また、アジアで認知活動を手伝ってくれないかと依頼されました。そこで、私は当時やっていた事業を1つの残らず閉鎖して、Hedera Hashgraphのみにコミットすることにしました。当時は、飲食店を7店舗経営して、他にも事業をやっていたのですが、社員に事業譲渡するなどしてすべて整理しました。

加藤:7店舗も経営していたら、世間的には事業に成功していると見られるものです。なぜ、今まで築き上げてきた成功をすべて手放してまでHedera Hashgraphにコミットしたのでしょうか?

ミアン:もう次元が違うわけです!もちろん反対されると覚悟して妻に相談をしました。

Hedera Hashgraphに関することを熱心に説明しまして、Hedera Hashgraphはインターネットに信頼を提供するレイヤー、すべての価値交換のプラットフォームになると。Hedera Hashgraphがやろうとしていることは、インターネットの再構築をしようとしているので、飲食店を7店舗経営するのと比べたら、スケールの次元が違うのではないか。そのようなことを話しました。

そして、妻からは「それは、やらなかったら将来に絶対後悔する話だからやりな」と言われ、反対どころか背中を押されました。今振り返ると正しい選択をしたと思っています。

加藤:世間的に理解が乏しい業界について理解してもらい、後押しをしてもらえるというのは、配偶者がいる人からすると非常に羨ましく思える話でしょうね。

ミアン:あと、これは自分がやりたいことに直結することでもあります。ブロックチェーンを理解している人がいない上に、暗号資産ですら勘違いしている人が多く、さらにHedera Hashgraphはエンタープライズ向けの技術です。日本の大企業にHedera Hashgraphについて説明する仕事というのは、自分以外にできる人はまずいないだろうなと思いました。

Hedera Hashgraphは、大企業向けの公開分散型台帳でブロックチェーンと同じようなことができますが、ブロックチェーンとは性能や仕組みが違います。また、Hedera Hashgraphを動かすためにはHBARという暗号資産が燃料(GAS)として必要になります。これは、イーサリアムを動かすためにはETHが必要なのと同じ考え方です。

ミアン:私自身は、今はアジアの統括をしています。世界トップ500のアジア企業に対して、Hedera Hashgraphを使ってもらえる活動をしています。エンタープライズがHedera Hashgraphを使ったアプリケーションを運用するときに、たくさんの問題が出てきます。例えば、暗号資産のカストディやAML/KYC、流動性など、多岐にわたります。このようなことを解決するには、Hedera Hashgraphのエコシステムが必要になってきます。そのためには、システムインテグレーター(SIer)や暗号資産取引所、カストディやオンチェーンモニタリングを行う企業が欠かせません。私は、彼らとのパートナーシップ構築を行っています。そして、もちろん認知度の向上も行います。これには教育も含まれます。

我々は、大企業の実需を狙っているので、大企業の実需のためには何をしなければいけないかという視点で活動しています。

加藤:Hedera Hashgraphは、大企業にフォーカスしているのですね。

ミアン:そうです。私がやっている事自体は多岐にわたりますが、すべては大企業の実需を狙うという点に集約されます。大企業がローンチしやすければ、スタートアップもローンチしやすいという視点で考えています。

加藤:Hedara Hashgraphのような分散型台帳プロジェクトは、技術先行型でスタートアップからのアプローチが多いですが、逆に大企業からアプローチしていくというのは珍しいですね。

Hedera Hashgraphの特徴紹介(前編)

加藤:Hedera Hashgraphとはどのようなプロジェクト・公開台帳ですか?立ち上げ背景や、技術概要を教えてください。

ミアン:Hedera Hashgraphは、誰でも簡単にアプリが作ることができる公開型の分散台帳です。個人やスタートアップ、中小企業や世界的大企業など、誰でも使用することができます。発足当初からの事業戦略として、世界的大企業が必要とする性能や機能、ガバナンス(規制遵守)を兼ね備えた技術を作ることに集中してきました。そのため、運営母体は、Google、LG電子、ボーイング、野村ホールディングズのような世界的企業が参加する運営審議会が担っています。また、性能や機能、ガバナンスもそのような企業が必要とするものを作っています。つまり、エンタープライズによる、エンタープライズのための技術です。

Hedera Hashgraph運営審議会は現在21企業で構成されています(2021年8月10日時点)。
Hedera Hashgraphの運営審議会

Hedera Hashgraphの運営審議会

ミアン:ブロックチェーン技術が本格的に普及しはじめてから10年以上経ちますが、未だに大企業による活用事例が少ないのが現実です。もともとビットコインを動かす仕組みとして生まれたブロックチェーンは、大企業が求めるような「スピード」「コスト」「セキュリティー」「ガバナンス」を兼ね備えていませんでした。秒間数取引しかできず、1取引あたりのコストが数百円で、規制当局との対話ができないとなると大企業が活用できないのも仕方がないと思います。Hedera Hashgraphは、このようなブロックチェーンの課題を解決し、大企業のユースケース開発を促しています。おかげさまで、ローンチから18か月でブロックチェーン技術を活用しているビットコインとイーサリアムの取引件数を超えました。

Hedera Hashgraphの累計取引件数の推移

Hedera Hashgraphの累計取引件数の推移

ミアン:もう少し詳しく説明します。分散型台帳は複数の世代に分かれていて、第1世代はビットコイン、第2世代はイーサリアム、我々は第3世代です。先程の、第1世代と第2世代が抱えている4つの問題を解決すべく、Hedera Hashgraphは立ち上がりました。

なぜ大企業がビットコインブロックチェーンでユースケースをローンチできないかというのは、第一にパフォーマンスが低いからです。そもそも既存のブロックチェーンは速く動くように実装されていません。これには、セキュリティとのトレードオフがあるからです。セキュリティを上げるために、敢えて遅くしています。ビットコインだと、ブロックを生成する時間を1ブロック10分に設定しています。構造的にセキュリティとパフォーマンスのどちらを選ぶかという点において、ビットコインはセキュリティを選んだということです。兎にも角にもトレードオフが発生します。いわゆる「ブロックチェーンのトリレンマ」です。

分散型台帳の特徴比較

分散型台帳の特徴比較

ミアン:ビットコインやイーサリアムのトレードオフは、スピードを遅くすることによって、セキュリティを確保しているということです。他にStellarのようなプロジェクトは、速くてコストも安くなっています。しかし、セキュリティのトレードオフがあります。また、非中央集権化という意味では、比較的中央集権的です。これは、Stellarの文句を言っているわけではなく、一般的に分散型台帳は何らかのトレードオフが存在するということです。

どのような技術でもトレードオフがあって、Hedera Hashgraphでもトレードオフがあります。ただ、トレードオフの次元が違うということです。我々のトレードオフは、1秒に1万や10万取引を必要としている企業が許容できるトレードオフであるかということです。

我々のトレードオフにも、ブロックチェーンのトリレンマが当てはまります。速度とセキュリティに関しては業界最高レベルを到達しています。しかし、非中央集権はまだです。非中央集権化は、5年後に業界最高レベルになる計画です。規制などの問題で、いきなり全部を非中央集権化するのは無理なので、我々は段階的に非中央集権化を歩んでいきます。発足当初はノードの数が5、今は21です。この先は例えば39、その後は100という具合に増えていきます。さらに、ノードを稼働できる人たちが、大企業だけではなく、誰でもノードを立ち上げられるようになっていきます。

ですので、今はスピードとセキュリティは業界最高レベルですが、非中央集権化という意味ではビットコインと比べるとだいぶノードが少なくなります。ブロックチェーンのトリレンマのトレードオフ的に、我々は業界で一番素晴らしいバランスになることを目指しています。

加藤:今はHedera Hashgraphに関する企業がノードを立ち上げていて、今後はそれを5年かけて開放していくというイメージなのでしょうか。

ミアン:その通りです。今はHedera Hashgraphの運営審議会のメンバーだけがノードを立ち上げています。

分散型台帳の世界は、このようにすべてのプラットフォームを4つの分野に分けることができます(スライド右側の図)。

分散型台帳の分類

分散型台帳の分類

ミアン:まずは、公開型か非公開型か(図の縦軸)、ノードが許可型か非許可型か(図の横軸)ということです。例えばビットコインとイーサリアムは右上になります。CordaやFabric, Quorumは左下になります。今のHedera Hashgraphは左上にあります。公開かつ許可型で、ノードは運営審議会メンバーのみが運営できます。我々が最終的に目指しているのは右上になります。一般にノード運営を開放します。我々はこのための取り組みを「非中央集権化への道」と呼んでいます。

Hedera Hashgraphが非中央集権化への道を達成できると、業界すべてのプラットフォームが抱えているトリレンマの最も高次元なトレードオフ、つまりパフォーマンスが10万TPS以上、セキュリティは最初から業界最高レベルのaBFT、そしてノードが1万以上で非中央集権的になります。ここまで行くと、誰もトレードオフで対抗できなくなることでしょう。

慎重にならなければいけないのは、運営審議会の企業はものすごく規制されている企業ばかりなので、そのような企業と足並みを備えて、ガバナンスやコンプライアンス、セキュリティの問題を地道にテストしながら拡大をしていく必要があります。そうしないと、Diem(旧Libra)みたいに規制当局から止められるようなことに至ってしまいます。

加藤:ここまで行くと、確かに許容できるトリレンマになりそうですね。

第2部へのつなぎ

第1部では、ミアン・サミ氏のHedera Hashgraphに関わるに至った覚悟とともに、Hedera Hashgraphがブロックチェーンのトリレンマを高次元なレベルまで引き上げていることについてお伝えしていきました。

第2部では、引き続きHedera Hashgraphの特徴を見ていきます。なぜ99.999999%のファイナリティではダメなのか、そして分散を重視する人から批判的な大企業中心のガバナンスについてどのように考えているかなど、Hedera Hashgraphの特徴やその裏付けとなる考え方についてご紹介します。

▼第2部はこちら

Hedera Hashgraph ミアン・サミ氏 インタビュー 第2部 - 技術に対する裏付けとなる考え
ブロックチェーンをはじめとする多くの分散型台帳は、ベンチャーコミュニティからDAppsが出ていき、次第に広まっていきます。一方で、Hedera Hashgraph(ヘデラ・ハッシュグラフ)は、暗号資産HBARを持ちながらも、全く逆となる大企...

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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