当サイトにおける筆者によるプロジェクト解説記事は、ほぼすべてがホワイトペーパーを読んでいるか、それに準じたドキュメントを読んだ上で作成しています。そのような中、筆者は「長期目線で見た『伸びるプロジェクト』」には型があると感じており、それを言語化したのが以下のツイートになります。このツイートは既に古いですが、直近で改めて共有したところ、大きな反響がありました。
1/
今朝Twitter Spaceで語った「良いプロジェクトとは?」の話、寝起きであまり具体化して話せなかった反省があったので、改めて自分の中で色々整理してみました。CoinMarketCapを見ると、きちんと生き残るプロジェクトは全体の1%程度な感覚があります。生き残るのはある程度の型があると思います。
— Kato@Crypto Media TOKEN ECONOMIST (@TokenEconomist) June 19, 2021
そこで、本記事では、上記のツイートを深堀りしていきます。最初に免責事項として、この記事は筆者の見解を述べたものであり、投資アドバイスではありません。投資判断を行う場合は、自身で調査検証を行った上で、自身の責任のもと行ってください。
長期目線で見た『伸びるプロジェクト』を見極める9つの条件
本題に入る前に、まず「長期目線で見た『伸びるプロジェクト』」の定義をはっきりとさせておきます。今回の場合、2 – 3年かけてトークン価格が上昇し、時価総額上位になるプロジェクトのことを指します。
これを踏まえ、本記事ではどのようなプロジェクトが時価総額上位に入りうるかという視点のもと、それらの要素をひとつひとつ分解していきます。
特定分野の1番手であること
IT分野では、一般的に1番手がシェアを握るということは稀です。SNSではMyspaceがFacebookに敗れ、スマートフォンではBlackBerryがiPhoneに敗れるといったように、1番手を改良したものが成功しています。一方で、ブロックチェーン分野では様相が異なっています。例えば、以下は何かしらの分野で1番手になっているものです。
- Ethereum:スマートコントラクトプラットフォーム
- Binance Coin:取引所による独自ブロックチェーン
- Dogecoin:ミームコイン
- Uniswap:現在主流のAMM DEXの原型
ブロックチェーンの場合、基本的にオープンソースであるため、プロダクトをコピーしようすればできてしまいます。後発プロジェクトは、1番手より優れたものを作ることができるのにです。
このような現象が起きる理由は、ブロックチェーンプロダクトはコミュニティで広がる度合いが強いからだと、筆者は推測しています。革新的なプロダクトには感度が高いユーザーが飛びつくため、そこには熱心なコミュニティが出来上がります。しかし、コミュニティは容易にコピーできないため、2番手がいくら優れたプロダクトを作ったとしても、なかなか1番手が崩れないのだと思われます。
ビジネス・技術進捗があること
これについて異論を唱える人はいないことでしょう。ユーザーを獲得しているプロジェクトは、何かしらの形で頻繁に情報発信しています。多くのプロジェクトは、Mediumやブログを用意しているため、まともなプロジェクトであれば週次や月次で進捗に関するレポート記事を公開しています。
また、技術進捗に関してはレポジトリを見ることで、開発のアクティブさを把握することができます。以下は、GitHubの例です。「Repositories」の欄を見ると、「Updated on <更新時期>」の内容を見ることができます。更新時期が直近であればあるほど、開発が頻繁に行われていることを表します。また、緑色の線「Past year of activity」で直近一年のアクティブ度が可視化されているため、年中アクティブであれば、プロダクトをきちんと開発する姿勢のプロジェクトであると判断できます。
良い例:Everscale
コミュニティの規模が大きく、質が良いこと
これについて異論を唱える人はいないことでしょう。ブロックチェーンプロダクトは、特にコミュニティ規模、そして質が大事になります。コミュニティの将来を信じる人が多ければ、エコシステムが育っていき、トークンの需要が増えるからです。
コミュニティの規模は簡単に判断することができます。TwitterやTelegram、Discordなどの参加者数を見れば良いからです。しかし、特にTwitterの場合、稀にフォロワーを買って参加者数を水増ししているプロジェクトがあります。ツイートに対して、コメントやいいね、RTが少ない、もしくはこれらがそれなりにあっても、それに対する言及内容のレベルが低い(例えば、単に「good project」が乱発されている、価格のことだけ)ような場合、フォロワーを買っていると判断しても良いでしょう。
悪い例としての非常に良い教材となるプロジェクトがあったので、紹介しておきます。
NIZKは、EthereumのLayer2を謳っているプロジェクトです。NIZKのTwitterは、本記事の執筆時点で、92,409フォロワーになります。フォロワー数だけ見ると、一見ユーザーから注目されているように見えます。しかし、このアカウントのツイート数は合計で10個しかないため、プロジェクトがフォロワーを買っているというのは容易に想像することができます。このようなプロジェクトは、仮にプロダクトをリリースしたとしても、最初からユーザーを騙しにかかるマーケティングをしているので、ラグ&プルを起こすリスクがあります。
また、ブロックチェーンプロジェクトは、トークンをエアドロップしてフォロワー数を水増しすることもできるので、併せてコミュニティの質にも注目します。Twitterを使い、プロジェクト名やトークンシンボルで検索し、プロジェクトの内容そのものについて熱心に言及している人が一定数目につくようであれば、まずは良いプロジェクトと判断することができます。逆に、ほとんど言及している人がいない、もしくはトークンの投機の話題しかない場合は、プロジェクトに人が定着していないと判断できるため、プロジェクトが短命に終わる可能性があります。
ベンチャーキャピタルの資金が入っていること
これには賛否があるかもしれませんが、ベンチャーキャピタル(以下、VC)の資金が入っていることが望ましいでしょう。VCがついているプロジェクトは、VCの資金や人的ネットワークを活用することができ、プロジェクトの立ち上げを素早く行うことができるためです。
逆に、VCがつかないプロジェクトは、VCがつかないなりの理由があると判断することができます。特に、プライベートセール段階で不特定多数の個人に積極販売しているプロジェクトは、VCがついていない可能性があります。個人投資家が多いと、プロジェクトが投資家に対して対応する手間が増えるため、ビジネス観点からはVCを複数社で固めている方が望ましいです。
また、ブロックチェーン界隈では、フェアローンチを良しとする人が少なくありませんが、フェアローンチはVCのような投資家がいないため、プロジェクトはコミュニティの力だけでプロジェクトを広げなければいけません。これは難易度が高いため、一般的にプロジェクトを拡げるという点においては不利な条件です。
トークン価格が上がる理由を推していないこと
中身が伴っているプロジェクトのWebページは、自分たちのプロダクトを推すように構成されています。それに対し、中身が伴っていないプロジェクトのWebページは、推すためのネタがトークン価格くらいしかないので、トークン価格が上がる根拠(例えばバイバック&バーン)やユーザーに対する大きな還元を謳っていることが多くあります。
もともと大したことがないプロジェクトのトークン価値は低く、そのようなトークンをバイバック&バーンしたとしても、トークン価値は低いままなのに変わりはありません。そのため、バイバック&バーンを安易にトークン価格が上がる根拠と見なさない方が良いでしょう。
ホワイトペーパーの中身がしっかりしていること
まともな活動実態があるプロジェクトは、ホワイトペーパーの中身がしっかりしており、ページ数が多い傾向にあります。
一般的に、ホワイトペーパーは概要から始まり、背景、市場の状況、解決策の概要、解決策の詳細、技術詳細、トークノミクスといった構成をとっています。特に、真剣に取り組むプロジェクトは、解決策や技術などの「自分語り」に関する部分が長くなります。一方で、劣悪なプロジェクトは「自分語り」に関する部分が短くなっています。
また、プロトコルを入念に作り込んでリリースするようなプロジェクトは、コンピュータサイエンスに長けたメンバーがいることが一般的です。このようなプロジェクトでは、ホワイトペーパーが論文のフォーマットになっていることがあります。このようなプロジェクトは、メンバーの背景からか研究開発をきちんと行っている傾向があります。さらに、真摯なプロジェクトでは概要をまとめたライトペーパーや、ビジネスペーパーなど、ジャンル分けされています。
以下は、良いプロジェクトのホワイトペーパーの例です。たとえ、中身が理解できなくても「ホワイトペーパーの雰囲気」を感じ取ることで、ある程度の良し悪しが判断できるようになるはずです。
良い例1:Maladex(合計88ページ)
良い例2:Nym(合計38ページ)
もちろん、ホワイトペーパーの中身がしっかりしているからといってプロジェクトが成功するとは限りませんが、真摯なプロジェクトはほぼ例外なくホワイトペーパーの中身がしっかりしています。
経験豊富なメンバーがいること
どのビジネスでも当てはまることですが、経験豊富なメンバーがいるに越したことはありません。
メンバーの経歴を調べるには、LinkedInでプロジェクトメンバーの名前を検索し、経歴を調べます。例えば、Layer1ブロックチェーンは、ブロックチェーンの中でも最も開発難易度が高い分野になります。そのため、コンピューターサイエンスに精通していることがわかる経歴を持つ人や、数学者や暗号学者が入っていることが望ましいです。また、DeFiでは金融がベースとなるため、金融出身のメンバーが入っていることが望ましいです。
しかし、実際問題、その人の経歴が本物かどうかはLinkedInだけではわかりません。仮に優秀な人しか入れない企業の勤務経験があったとしても、調べる側がその企業を知らないことが往々にしてあります。このような場合は、経歴からの判断は難しくなります。また、酷い場合だと、名前貸しやディープフェイクを使っている場合があります。そのため、経歴は参考程度となります。
ビジョンや思想があること
お金のつながりだけのコミュニティは持続しません。そして、徹底的なビジョンや思想があるプロジェクトに人は惹かれます。その代表例が、ビットコインになります。ビットコイン開発者には、プロトコルからの直接的なインセンティブがないにもかかわらず、それでも彼らは開発を続けています。
最近では、DAOを最終的なゴールに据え「プロジェクトをみんなのものにする」ことを謳うプロジェクトが増えていますが、その場合は分散化のロードマップを気にする必要があります。また、ガバナンストークンを発行したとしても、チームの取り分が多いと、チームの支配力が増すためにDAOは単なる建前で終わる可能性があります。加えて、そのプロダクト分野がDAOに適するかを考える必要があります。例えば、ゲームは安定した運営が求められるため、DAOに適さない可能性があります(もしかしたら、将来ゲームを運営するDAOが成り立つかも知れませんが)。
DAO化に関して、非常に良い例がAstar Networkになります。多くのプロジェクトは、チームのトークンアロケーションが初期発行分の15 – 20%程度になることが一般的ですが、Astar Networkでは5%しか割り当てていません。また、Astar Networkはパラチェーンオークションのインセンティブ、つまりコミュニティに配るトークン割合を他プロジェクトより多めにしており、トークン設計からDAO化を強く意識していることが分かります。参考:$ASTR Allocation
トークノミクスがしっかりしていること
筆者は、プロジェクトに実力がある場合、最終的にトークノミクスがトークン価格に大きな影響を与えると考えています。
現実的に、多くのトークン投資家は自分が売ることしか考えていません。たとえプロジェクトが優れていたとしても、誰もが簡単に売れる仕組みになっていると、トークン価格が下がっていき、結局コミュニティから詐欺扱いされてしまうことがあります。そのため、トークンが簡単に売られることがない、トークノミクスが重要になってきます。
筆者は、長期的にトークン価格が上がるプロジェクトには型があると感じています。それが、
- ユーザーが長期的に持つ理由や仕組みがあり
- 頻繁に使われ
- 1回あたりの取引額が大きい
というものです。条件1に関しては、ロックアップやステーキングといった仕組みが該当します。また、将来的に使うために、手元にトークンをストックしておくといった要素も含まれます。条件2に関しては、仕組み上よく使われ得るということです。条件3に関しては、DeFiで流動性提供などの要素があります。
実は、CoinMarketCapの上位にあるトークンのほとんどは、この条件を満たすようになっています。代表例だと、BTC, ETH, BNB, AVAXが上記に該当します(しかし、BTCだけは特殊で、トークノミクス的には条件1の「仕組み」は満たさないものの、結果的に「理由」を満たしています)。そして、代表例に似たトークノミクスを持つものは、今後同様のようになる可能性があるとみなすことができます。
これに至ったヒントは「貨幣数量説を応用したユーティリティトークンの理論価格算出」や「なぜトークンの価値を高めるために流通速度が重要なのか」になります。長期目線だと、いずれも参考になる記事なので、興味がある方は是非読んでみてください。
最後に
本記事では、長期目線で見た『伸びるプロジェクト』を見極めるプロジェクトの条件を9つの要素に分解して紐解いていきました。
現実的に、長期で伸びるプロジェクトは全体の1%程度、良くて3%程度というのが筆者の感覚になります。トークンに投資することは、基本的にベンチャー企業が作るプロダクトに投資することと一緒であり、統計上ベンチャー企業は死ぬ確率が高いものになります。筆者の挙げたプロジェクトのトークンに投資したとしても、ベンチャー投資には変わりないので、その点は忘れないようにすると良いでしょう。
また、しつこいようですが、この記事は筆者の見解を述べたものであり、投資アドバイスではありません。投資判断を行う場合は、自身で調査検証を行った上で、自身の責任のもと行ってください。