Layer1暗号資産

Everscale(EVER)の解説

Layer1
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Everscale(EVER)の概要

Everscaleは、高速かつ安全でスケーラブルなLayer1ブロックチェーンとネットワークプロジェクトです。チェーン全体で、毎秒100万のトランザクションを処理することでき、ユーザーおよびサービスプロバイダーに使いやすくなるように設計されています。暗号資産として、$EVERが発行されています。

Everscaleの特徴的なものの1つに、その歴史が挙げられます。2018年、Telegramメッセンジャーで知られているTelegram社は、Layer1ブロックチェーンであるTelegram Open Network(以下、TONと表記)のICOを行いました。TONの調達規模は、EOSに次ぐ歴代2位であり、約17億ドルにのぼります。その後、Telegramは、違法証券を販売していたという理由で米国SECとの裁判に突入します。最終的に、2020年5月12日、TelegramはTONのプロジェクトを終了しました。しかし、それまでに開発してきた技術が途絶えたわけではありませんでした。当時、TONのソースコードがオープンソースで公開されたため、TONを気に入ったコミュニティがブロックチェーンの開発を続け、同月7日にFree TONをローンチしました。最終的に、Free TONは2021年11月にEverscaleにリブランドされ、今のプロジェクト名に至ります。

Everscale のブランド変遷

TONから派生したブロックチェーンプロジェクトは、Everscaleの他に、$TONCOINで知られているThe Open Network解説記事)が存在しています。こちらはTONからのコンセプトを忠実に守る立ち位置で開発を継続しており、2022年には再びTelegramが関与するようになりました。The Open Networkと比較すると、EverscaleはTONからの技術資産を継承しつつも、ブロックチェーンに対して独自の改良を加えながら開発を進めています。実際に、Everscaleではコードを刷新しており、既に99%以上がオリジナルのものになっています。

また、Everscaleの活動形態の特徴的な点として、完全なDAOから始まり後に中央集権的な組織を立ち上げたというユニークな経緯があります。初期のDAOは、(サブ)ガバナンスと呼ばれ、地域別や機能別による団体で構成されていました。その後、2021年後半より中央的なイニシアチブをとるEverscale財団を設立し、ガバナンス機能をEVER DAOと呼ばれるコミュニティの投票形式に移行しました。

2023年1月19日時点、Everscaleブロックチェーンには107万のウォレットが作成され、直近24時間のトランザクション数は約12.5万、バリデータ数は196となっています。

DAOのみから始まり中央集権的な財団の設立へ

通常のパブリックブロックチェーンのプロジェクトであれば、中央集権的な組織から始まり段階的なDAO化をしていくのが一般的ですが、Everscaleはその逆を経た珍しいブロックチェーンプロジェクトです。

Free TONのローンチ後、プロジェクトでは地域や機能別のDAOである「サブガバナンス」制度をスタートさせました。最終的には26のプロジェクト公認DAOが存在し、プロジェクト全体の重要ごとを決めるEverscale Governanceと、地域別・機能別の活動を行うサブガバナンス(Subgovernance)で構成されました。サブガバナンスには、日本を担当するJapanese Subgovernanceや、Everscaleのコードを形式的検証で信頼性を高いものにすることを目的としたFormal Methods Subgovernanceなどが存在していました。当時はサブガバナンスが事前に予算をとり、それに基づいて活動するという形式であったため、事前の計画内容を守らなかったり資金の着服が後を絶たず、最終的にサブガバナンス制度は失敗に終わりました。その後、プロジェクトのガバナンスは、2022年3月にトークン保有者の投票によるガバナンス手段であるEVER DAOに移行しました。

また、DAOのみから始まったEverscaleは、プロジェクト全体のまとまりがなく推進力を確保できない状況に陥っていました。そのため、プロジェクトは2022年9月にイニシアチブをとるEverscale財団を設立しました。

Everscaleブロックチェーンの特徴

秒間100万トランザクションが処理できる

Everscaleは「スケーリングに限りがない」という名前にも込められている通り、設計上はチェーン全体で秒間100万トランザクションを処理できる仕組みになっています。

Everscaleのブロックチェーンは、階層型のマルチチェーンで構成されています。唯一の存在であるマスターチェーンを頂点として、最大232個のワークチェーンが接続できるようになっています。ワークチェーンは、最大260個シャードチェーンに分割されます。さらに、シャードチェーンはシャードに分割されます。シャードチェーンのハッシュがマスターチェーンに組み込まれると、ファイナリティが確定します。Everscaleでは、チェーンの負荷状況によってシャードの数を動的に変化させることにより、最終的にチェーン全体で秒間100万トランザクションを処理できるようになります。
また、各ワークチェーンは、独自のネイティブトークンやアドレス体系、仮想マシンなどの固有のルールを持つことができます。さらに、ワークチェーンが相互運用要件を満たすことで、ワークチェーン同士の相互接続が可能になります。

中央集権化を防ぐ分散化アプローチ

Everscaleでは、2023年1月19日時点、196のバリデーターがありLayer1ブロックチェーンとしてはある程度分散化していると言える状態にあります(参考情報:Everscale Blockchain Explorer)。

チェーンのシビルコントロールとしてProof of Stake(PoS)を採用し、コンセンサスは、BFTベースのCatchainと呼ばれるアルゴリズムを採用します。しかし、このままだとノードの数が増えてもスケーラビリティが拡張できないことから、新しいコンセンサスアルゴリズム「Soft Majority Fault Tolerance (SMFT)」の開発を行い、2023年前半にリリースを予定しています。SMFTは、シャーディングによりシャードの数が増えてもチェーンのセキュリティが損なわれないようになります。

また、ネットワークに多様な種類のノードを配置することにより、分散化を図ります。バリデーター以外にも、バリデーターに検証作業を委任するノミネーター、バリデーターの過ち指摘するフィッシャーマン、新しいシャードチェーンのブロック候補をバリデーターに提案するコレーターがネットワークに参加できるようになっています。Everscaleでは1,000のバリデーターを許容し、そのうち100のバリデーターをマスターチェーン、残りのバリデーターをシャードチェーンの検証作業に割り当てるようになっています。

独自の仮想マシン「Everscale VM (ESVM)」

Everscaleのメインワークチェーンでは、ユーザーとブロックチェーンとの対話を容易にするために、中間にEver OSと呼ばれるオペレーティングシステム(OS)を用意し、その上でアセンブリコードを実行できるようにしています。これらを構成する仮想マシンは、Everscale VM(ESVM、旧名TVM)と呼ばれます。ESVMは、EVMの改良型になっており、チューリング完全で、特定のハードウェアに依存しない環境でESVMアセンブリを実行できるようになっています。ESVMでスマートコントラクトを実装するためには、Solidity もしくは C, C++ でコードを記述することになります。

しかし、EverscaleではESVMだけでは十分に開発者を取り込めないことも認識しており、2023年にEthereum VM(EVM)互換のワークチェーンのリリースを予定しています(後述)。

スマートコントラクトの利用難易度を下げる「DeBot」

通常、ブロックチェーンのスマートコントラクトを利用するには、コード実装の知識が必要になり、さらにセキュリティを維持する手間も要します。これらは、ブロックチェーン活用へのハードルの1つになっています。

そこで、EverscaleではDeBotと呼ばれるスマートコントラクトの対話型インターフェイスも用意しており、事前知識を必要とせずにスマートコントラクトを実装、利用することができるようになっています。DeBotの基本的な型は、チャットベースのインターフェイスになっており、ユーザーがスマートコントラクトと対話をすることで、様々な機能にアクセスできるようになります。これにより、スマートコントラクトの知識がなくても、セキュリティを維持しつつ柔軟な機能へのアクセスできるアプリケーションを実現することができます。

EVERトークン

Everscaleでは、プラットフォームのネイティブトークンとしてEVERトークン(以下、$EVERと表記)を利用します。

$EVERは、一般的なブロックチェーンプラットフォームと同じく、GASやステーキングで使用します。2023年1月19日時点、総供給量は 2,073,474,794 EVERで循環供給は 1,740,078,702 EVERになっています(参考情報:Everscale Blockchain Explorer)。

実力主義のEVERトークン配布

Everscaleでは、過去にICOを行っていないため、サブガバナンス制度を採用していた時代には、何かしらのプロセスを通して$EVERの配布を行っていました。以下の構成は、当時のトークン割り当てになります。

  • Referral Giver (85%):Everscaleのユーザーベースを広げるための活動への助成・報酬
  • Developer Giver (10%):Everscaleブロックチェーン開発者への助成・報酬
  • Validator Giver (5%):バリデーターへの報酬

このように、当時は一般ユーザーへの割り当てが一切なく、エコシステムへの貢献者にしかトークンを配らない実力主義なトークン配布になっていました。

その後、Everscaleは大口投資家にトークンを販売するCrystal Handsプログラムなどを通し、$EVERトークンの保有者は多様化していきました。また、2021年11月には本格的なメインネットの準備のため30億トークンのバーンを行いました。2023年1月19日現在、トレジャリーが6割を締め、その他は様々なユーザーが$EVERを保有しています。

EVERの配布

EVERの配布(EverKitより)

EVERトークンのステーキング

Everscaleは、シビルコントロールにProof of Stake(PoS)を採用するため、$EVERをステーキングすることができます。

自らバリデーターになってステーキングするには、260,000 EVER(日本円で約171万円)が必要になります。多くのユーザーにとってこの額はハードルが高いため、ノミネーターになり、自分の$EVERをバリデーターに委任するのが最も現実的なステーキング方法になります。ノミネーターは、100 EVER(日本円で約659円)からステーキングすることができ、年利 5?7%の程度の利回りを得ることができます。ノミネーターが自分の$EVERを委任してもすぐにステーキングが始まるわけではなく、バリデーターの選出が行われてからになります(最大54時間待つ)。また、54時間のアンステーク期間があります。

ユーザーがノミネーターになるには、ウォレットを使い、バリデーターが用意したスマートコントラクト「DePool」とやり取りして、ステーキングの操作を行う必要があります。実際には、ユーザーはウォレットがDePoolとやり取りしていることをほとんど意識することなく、裏側で一連のステーキング動作が行われます。DePoolの一覧は「Catalog of DePools」から確認することができます。

EVERトークンの対応ウォレット

$EVERには、以下の代表的なウォレットがあります。

Ever Surf (PC/iOS/Android)

Ever Surfは、Everscaleブロックチェーンの開発リード企業であるEverX Labs(旧TON Labs)が開発しているウォレットです。コードの知識がなくてもスマートコントラクトと簡単に対話できるインターフェイス「DeBot」に対応し、ユーザー同士で暗号化されたメッセージをやり取りできる機能が搭載されています。また、$EVERのステーキングをウォレットから直接行うことができます。

Ever Surfには、ウォレットの作成過程でシードフレーズ(ウォット内ではマスターパスワードと表記)をメモする手順がないため、ウォレット作成直後にシードフレーズをメモを怠ると、ウォレットのセッションが切れると資産を失うリスクがあります。

Ever Surf

EVER Wallet (ブラウザ拡張機能)

EVER Walletは、Everscaleエコシステムにおいて最も多くのDeFiプロダクトを提供しているBroxusが開発しているブラウザ拡張機能のウォレットです。Chrome互換ブラウザであれば利用することができ、ChromeやBrave、Edgeで利用することができます。EVM互換チェーンにおけるMetaMaskのような位置づけのウォレットになり、Web上で展開されるDeFiやNFTマーケットプレイスなどで利用します。

EVER Wallet

 

Moonstake Wallet (Web/iOS/Android)

Moonstake Walletは、ステーキングプロバイダーのMoonstake(解説記事)が提供しているウォレットです。日本語、マルチ通貨に対応しているため、普段づかいのウォレットとしても利用することができます。また、非カストディ型のウォレットでありながら、メールアドレスとパスワードによるソーシャルリカバリにも対応しています。ユーザーは、Moonstake Walletから直接$EVERをステーキングすることができます。
Moonstake

EVERトークンを売買できる取引所

EverscaleのDApps

Everscaleでは、コミュニティで広く認知されているDAppsがいくつかローンチされています。ここでは、代表的なものを紹介します。

FlatQube

FlatQubeは、UniswapのようなAMM DEXになります。Everscaleブロックチェーン上で流通するTIP-3規格のトークンをサポートしています。資産の交換や流動性提供、イールドファーミングの機能が搭載されています。また、$EVERがTIP-3規格トークンではないため、FlatQubeで直接扱うことができません。そのため、wEVERを使い、$EVERをラップして$WEVERにしておく必要があります。

FlatQube

Octus Bridge

Octus Bridgeは、EVM系チェーン(Ethereum, Fantom, BNB Chain, Polygon)とEverscaleとのブリッジになります。また、同じ開発者からCardanoとEverscaleとのブリッジAdaeverも公開されています。

grandbazar

grandbazarは、EverscaleのNFTマーケットプレイスです。EverscaleブロックチェーンのTIP-31規格のNFTに対応し、NFTの発行から二次流通までを行うことができます。
grandbazar

Everscaleに関する情報

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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