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Solana Labs 小野寺諒氏 インタビュー (後編):現在のSolanaの取り組み、ブロックチェーン業界で働くために必要なこと

インタビュー
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既に強力なエコシステムを築き、高速なLayer1ブロックチェーンとして知られているSolana。その本当の良さは、なかなか伝わらないものです。そこで当記事では、Solanaの開発会社であるSolana Labsの唯一の日本人エンジニア小野寺諒(おのでら りょう)氏に、エンジニア視点におけるSolanaの魅力について語っていただきました。

このインタビューは前後編に分かれており、後編では現在Solanaが取り組んでいることや、当事者の視点からブロックチェーン業界で働くために必要とされることについてご紹介します。

前編をまだ読んでいない方は、先に「Solana Labs 小野寺諒氏 インタビュー (前編):エンジニア視点からのSoalanaの魅力とは?」をご覧ください。

後編:現在のSolanaの取り組み、ブロックチェーン業界で働くために必要なこと

Solana? Labsが現在注力していること

加藤:現在Solana Labsでは、どのような点に注力していますか?これからSolanaプロジェクトがどのような方向に行こうとしているのでしょうか?

小野寺:今は、Solanaチェーンのネットワーク不安定問題を解決することに注力しています。Solana LabsのFounderのAnatolyがよく言っているのですが、いまのSolanaは「成長痛」を感じている段階です。ユーザーの流入に対してソフトウェアの改善が間に合ってないからです。

これは、プロトコル的にスケーラビリティがないというわけではなく、単純に実装が良くない部分があって、そこを直せば解決するということです。また、障害が起きるのもアーキテクチャの根本的な問題と言うより、ブロックチェーン業界を通しても前人未到な規模の様々な未知のシステム負荷を一つ一つ乗り越える必要があるからです。

加藤:ソフトウェアの良くない部分が、全体の足を引っ張っているわけですね。

小野寺:そうですね。Solanaのスケーラビリティがもう限界だということが言われたりしていますが、決してそういうわけではありません。我々は順次改善しています。最近はノードバージョンを1.9xから1.10xにバージョンアップして、不安定問題を積極的に直しています。この取り組みは、まだ修正途上なのでしばらくかかると思います。

加藤:みんなSolanaが正式サービスかのような感じで使っていますが、まだベータ版ですしね。ちなみに、Solanaのベータはいつ終わるのでしょうか?

小野寺:そこは僕らが決めるのではなくて、ネットワークの運営やDAppsを使っているコミュニティが決めることです。つまり、DAOの投票で決まるということです。まだまだベータが取れるまでは改善の余地があるので、頑張ります!

ここまでが技術的な取り組みについてです。また、エコシステムの成長のために、Solana Labsではリアルユースケースを増やすことに注力しています。例えばSolana Payというサービスがあって、これはSolanaが低レイテンシーだからこそできるものです。さらには先日Solana Mobile StackというSDKと共にSolanaのスマートフォン「Solana Saga」を発表しました。他にも、スマートコントラクトを開発しやすくするという取り組みがあります。

加藤:他には何かありますか?

小野寺:実は、僕自身はそれ以上はわからないのです。僕の頭の中の99%は、ネットワーク不安定問題の解決で占められています。

加藤:それだけネットワーク不安定問題が重要課題ということですね。

Solanaの開発者コミュニティを拡大するための取り組み

加藤:Layer1ブロックチェーンは、特に開発者コミュニティが重要になります。Solana Labsでは、開発者を誘致するためにどのような活動をしていますか?

小野寺:僕自身は、開発に専念しているのでコミュニティ拡大にはあまり関わっていませんが、時々日本コミュニティのサポートを行っています。

加藤:具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?

小野寺:Solana Japanを通して、Solanaの認知拡大を行っています。Solana Japanは日本におけるSolanaのコミュニティで、1,000人ほどがTelegramにいます。月次でミーティングをしていて、Solanaのエコシステムプロジェクトや様々な議題について議論しています。最近だと、品川でハッカーハウスのイベントを開催して、日本のSolana普及をお手伝いしました。

加藤:あのイベントには私も行きました。ブロックチェーン業界にいるわけでもなく、エンジニアでもないという方がたくさんいて、何かの可能性や機会を探りにきているようでした。また、経産省でWeb3を調査しに来たという方もいましたね。

小野寺:それはありがたいですね。僕がSolana Labsにいる日本人であるというレバレッジを利かせて、海外プロダクトであるSolanaを広めて行きたいです!

小野寺氏のお気に入りSolana DApps

加藤:Solana上で構築されたDAppsプロジェクトで、小野寺さんが個人的に気に入っているものはありますか?よろしければ理由も教えていただけますか?

小野寺:僕は、レバレッジ取引所のMango Marketsが好きです。

加藤:それはどうしてですか?

小野寺:板取引を含め、オンチェーンで全部をやっているというのはアツいですね。Ethereum系だとこのような仕組みはスケーラビリティがないからできない、でもSolanaならできるんです!Mangoは、Solanaが高性能だからこのようなことができるというのを示す生き証人みたいなプロジェクトです。

加藤:私が以前、他のDEXプロジェクトにインタビューした時、板取引はトランザクションが多くなるので、本来オンチェーンの処理には向いていないという話を聴きました。

小野寺:そうなんです。ですが、Solanaであれば全部オンチェーンでできてしまいます!Solanaを使えば、中央集権型取引所にあるような出金停止や口座凍結もないですし、KYCもないので本当に誰もが自由に取引できます。これはDeFiの真骨頂かなと思います。そして、もちろん速いです。

また、Mango Marketはコンポーザビリティの体現者でもあります。PREP(無期限先物)を自分たちで作っていて、現物はSerumと板連携しています。

加藤:オンチェーンによる流動性プロバイダーを組み込んでいるようなものなのですね。

小野寺:そうなんです。これはSolanaがシャーディングをしないからできるものです。仮にSolanaがシャーディングしてしまうと、シャード間の通信が難しくなるため、実現が困難になります。また、ユーザー体験でいうと手数料が非常に安いです。

加藤:確か、アルゴリズムステーブルコインのUXD ProtocolもMango Marketsでデルタニュートラルポジションをとる仕組みでしたね。これもコンポーザビリティがあるからこそできる仕組みですね。他にもありますか?

小野寺:他には、レンディングプロトコルのSolendです。僕はイールドファーミングはやらないのですが、単純に資金を貸して利回りを得られるというのは面白いと思っています。

加藤:この界隈は、レンディングプロトコルが当たり前すぎて誰も驚かなくなっていますが、普通に考えてみたらすごいことですよね。

小野寺:そうですね。誰にも支配されない、誰からも制約を受けないというのは本当に革命的なことだと思います。また、技術的な話をするとSolendはSPL (Solana Program Library)というライブラリがあり、それのリファレンス実装を参考にしています。オープンソースの思想を上手く体現していて、積極的にSolana自体にコントリビュートするという姿勢があるので僕は好きです。

ブロックチェーン業界で働くために求められること

加藤:ここからは話題をガラッと変えて、ブロックチェーン業界での働き方について聴いていきます。

私のまわりを見ていると、ブロックチェーン業界に入りたいと考えている人は以前より本当に多く、特に学生の関心は高いと感じます。既に業界の第一線にいる立場として、小野寺さんはブロックチェーン業界に入るためにはどのようなスキルやマインドセットが必要だと考えていますか?

小野寺:結局のところ、ブロックチェーンは大きな潮流でみるとスタートアップの一派になります。そのため、スタートアップのマインドセットがすごく大事になります。自分たちを取り巻く状況がどんどん変わっていくので、臨機応変さが求められます。

加藤:ブロックチェーン業界は、変わりすぎだろというくらい速く変わっていきますね。

小野寺:あと、穏やかに仕事ができないことは知っておいたほうがいいと思います。エコシステム自体の連携もそうですが、カオスみたいな状態で、とにかく速くプロダクトを改善してリリースするというのが求められます。一つ一つ丁寧にやるというマインドセットは良くないです。

加藤:完璧主義者は向かない感じがしますね。

小野寺:ただ、ブロックチェーンならではの、一般スタートアップとの違いがあります。それは、セキュリティミスを犯してはいけないということです。特にDeFiだとお金が絡んできますから。大事なところと大事じゃないところのメリハリを持つのが重要ですね。

加藤:ここまでマインドセットの話をしてきましたが、スキルセットについてもお聞かせください。スキル面では何が必要でしょうか?

小野寺:エンジニアでも英語は必須です。また、基礎どころを押さえて常に新しい技術をキャッチアップできる飲み込みの速さ、要領の良さと言うのは必要だと思います。

また、僕はマインドやスキルの他にスピリットの要素が必要だと思っています。ブロックチェーンは思想が明確にあって、そこに関して共感してコミットできるかどうかは重要です。既存の中間搾取への課題意識や分散化など。これはオープンソースと同じなのですが、いかに自分が不満を感じてそれをディスラプトするかというのは持たなければいけないスピリットです。それがないと、ブロックチェーンをやる意味は無いと思います。

加藤:確かに、ブロックチェーン技術というのは既存勢力に対するアンチテーゼですからね。

小野寺:おっしゃる通りで、かつてオープンソースとクローズドソースの戦いというのがあって、それはもう決着が付いてしまいました。それと同じように、ブロックチェーンも戦いの中で勝とうとしていて、そこに身を投じるかということです。それができないと、あまりにもカオスすぎてモチベーションが無くなってくることがあると思います。

加藤:ちなみに、小野寺さんの場合は、どのようなときにモチベーションがなくなるのですか?

小野寺:障害が起きた時ですね。

加藤:エンジニアサイドであってもビジネスサイドであっても障害は辛い場面ですね。私はもともとSIerにいたので、お気持ちはわかります。

小野寺:Solanaは今まで4回障害が起きて、僕はすべてに携わったのですが、外部との連携がとても大変で、失敗が許されません。

加藤:また、採用についてもお訊きしたいのですが、小野寺さん自身はSolana Labsからどのように採用されたのですか?

小野寺:僕の場合は、プルリクエスト採用でした。GithubでSolanaのソースコードが公開されているので、他のLayer1ブロックチェーンと比べて良いなと思ったのでコミットし始めました。そしたら、筋が良かったので採用されたという感じです。ですので、普通の採用フローではありません。

加藤:実力を透明性のある方法で示すことができたということなのですね。

小野寺:そうですね。僕は、そこも業界の自由なところだなと思っています。履歴書を出してよくわからない基準でマルバツされるのはすごく嫌で、エンジニアであれば「コードで語れ!」です。もちろん、Solana Labsでも普通の採用フローはあります。

グローバルプロジェクトにおける働き方とは

加藤:もう少しブロックチェーン業界で働くというテーマについて掘り下げさせてください。Solanaのようなグローバルなプロジェクトの場合、どのような働き方をしているのですか?ざっくりと一日の流れを教えてもらえますか?

小野寺:働き方は完全にリモートになります。メンバー間の時差があるので、僕の場合は午前中は寝ていて、午後から仕事をはじめます。

仕事を開始したら、開発やコードレビュー、調査をします。これらは普通のエンジニアと変わりありません。あと、ミーティングはほとんどありません。ここは日本企業と大きく異なる点です。みんなチャットツールでメッセージを送り合います。グローバルチームなので、同時に会うのは大変ですしね。

加藤:コミュニケーションのツールは何を使っているのでしょうか?

小野寺:社内ではSlackを使っています。また、個人情報を扱わない限りは、オープンソースなのでエンジニアはDiscordで会話します。あとはGithubですね。

加藤:そこは従来の会社と違う感じですね。

小野寺:また、夜も作業をして、そして深夜に寝ます。日本の深夜は米国の朝なので、必要であれば情報共有してから寝ています。この生活パターンは穏やかなケースで、週に1?2回あるかどうかです。基本的に週末平日を関係なしに24時間365日ずっと働いています。

ブロックチェーンの良いところは、24時間365日止まらないということなので、僕も止まらないです(笑)僕のところには、頻繁に色々な問題が持ち込まれたり、緊急でコードレビューしてほしいという依頼が来ます。ベースの時間はあれど、睡眠が足りてない時は仕事の時間でも寝ることがあります。ですので、かなり不規則な生活を送っています。

もともと、お金を貰っていなくても自分からSolanaに関わり始めたくらいSolanaが好きなので、僕がこのような働き方を受け入れられるというのはあります。

加藤:ちなみに、評価や報酬はどのように決まるのでしょうか?

小野寺:パフォーマンスレビューというのが半年に1回あって、そこで決まります。360度評価というのがあります。これは日本のIT企業と変わらないです。

加藤:また、報酬はどのように支払われるんですか?

小野寺:現在は、Solana上でUSDC (SPL-Token)で頂いております。Ethereum上のUSDC(ERC-20)ではないです。ちなみにSolanaのメインネット開始前は海外送金で、Solanaの優位性は身を持って感じています(笑)

加藤:こうして見ると、日本企業と変わらない部分も多いですね。

小野寺:そうですね。英語を除けば、やっていることは日本企業と同じです。日本企業でエンジニアとして通用しているのであれば、同じように通用すると思います。

実は、僕は英会話が苦手なんです。それでもなんとかなります。エンジニアだとミーティングがほとんどないですし、読み書きができればなんとかなります。全体会議で、たまに一方的に英語を聞くことがあるくらいです。

加藤:最後に、ブロックチェーン業界に胸をときめかせ、これからこの業界に来たいと思っている方に何かメッセージをお願いできますか?

小野寺:僕は、この業界は世の中を大きく変革させられると思っています。時代の最先端に身を置きたいならブロックチェーンだと思います。世の中の何かを変えたいという方に、是非この業界に来てほしいですね!

日本のSolanaコミュニティへのメッセージ

加藤:私は、日本のSolanaのコミュニティは本当に強いなと感じることがあります。なぜ日本のコミュニティはここまで強いのでしょうか?また、Solana Labsの中にいる立場として、コミュニティに対して伝えたい事があったら教えてください。

小野寺:日本のコミュニティには、Solanaが黎明期の時から日本語で発信し続けている人がいるので、ここまでコミュニティが立ち上がったのだと思います。皆さんには、本当にありがとうと伝えたいです。Solanaはまだまだ成長過程で、足りないところがたくさんありますが、「当たり前になってつまらなくなるまで」は時代の最先端の追体験をしていきましょう!

加藤:当たり前になってつまらなくなるというのはまた面白い視点ですね。

小野寺:先程のインフラの話になりますが、僕は、Solanaが最終的につまらなくなって欲しいと思っています。本来インフラというのは意識されるものではないですから。

加藤:感覚的にわかります。通信に例えると、ユーザーがブロックチェーンが面白いというのはインターネット通信におけるTCP/IPが面白いねと言っているようなものですからね。

小野寺:そうですね。それと似たようなものです。今でこそ色々な問題があって取り沙汰されていますが、本来Solanaは縁の下の力持ちです。はやくそうなりたいし、そうしていきたいですね。

あと、プロダクトやサービスは使ってみてなんぼです。とにかくたくさんの人にSolanaを使ってもらいたいです。たくさん使われることによって、セキュリティは向上しますし、使われるからこそ多くのバグが洗い出されてより強固なLayer1になっていきます。そこをコミュニティの皆さんとやっていきます!

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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