LayerZero概要
LayerZeroは、異なるブロックチェーン上にあるDApps同士を、信頼すべき第三者機関を排除した形でつなげるための低レイヤーのプロトコルです。これにより、LayerZeroは異なるブロックチェーン間に相互運用性を与え、流動性の断片化問題などを解決します。
ユーザーは、LayerZeroを通じて異なるブロックチェーン間の流動性を自由に移動させることができ、第三者機関を信用することや中間トークンを用いなくとも、単一の流動性プールで異なるブロックチェーン間のDeFiに参加することができます。
LayerZeroは、カナダのバンクーバーに拠点を持つLayerZeroLabsが開発を行い、2022年3月にはa16zやFTXなどの著名な機関投資家から約165億円を調達しています(参考)。また、Sushiswapのコアメンバーとして知られていた0xMakiがフルタイムで参加したことでも話題になりました(参考)。
LayerZeroが解決する課題
ブロックチェーンプラットフォームは、それぞれが独自の進化を遂げ、その数は増え続けています。そこで問題となるのは、異なるブロックチェーン間の相互運用性がないことです。
例としてDEXを想定した場合、Polygon上の$MATICをAvalanche上の$ETHに直接交換することができない点があげられます。このような状況は、DEXの流動性がブロックチェーンごとに分散し、十分な流動性を確保できず、多額の交換に耐えることができなくなることにつながります。流動性が分散することは、最終的にDeFiエコシステムの成長の妨げとなってしまいます。
このようなブロックチェーンの相互運用性問題を解消する方法として、主に以下のような手法があります。
- クロスチェーンプラットフォームを利用する方法
- 中央集権型取引所を利用する方法
- ブリッジを利用する方法
- クロスチェーンDEXを利用する方法
クロスチェーンプラットフォームを利用する方法
クロスチェーンプラットフォームを用いる方法は、Cosmos SDKやSubstrateのようなクロスチェーンのためのSDKを利用するか、Polkadot/Kusama Relay Chainのようなクロスチェーンのための接続チェーンに接続することで相互運用性を確保します。
これらの方法では、SDKを使っていないブロックチェーンや接続チェーンに繋がっていないブロックチェーンでは相互運用性を確保することができません。
中央集権型取引所を利用する方法
中央集権型取引所を利用する方法は、取引所にいったん資産を預け、その後別のチェーンに資産を引き出す方法です。最も簡単な方法ですが、中央集権型取引所を信用しなければならず、ブロックチェーンの本来の目的から逸脱します。
ブリッジを利用する方法
ブリッジを利用する方法は、送金元のチェーンのブリッジに資産をロックし、送金先のチェーンでブリッジからロックした資産と同じ数量の資産を発行することにより、相互運用性を確保します。
この方法は、ブリッジのスマートコントラクトを信用する必要があり、スマートコントラクトのセキュリティリスクを負います。また、ブリッジを管理する第三者機関を信頼する必要があります。ブリッジですべてのブロックチェーンの相互運用性を確保するには、各ブロックチェーンのペアのブリッジを作成する必要があり、ブリッジの数だけセキュリティリスクが高まります。
クロスチェーンDEXを利用する方法
クロスチェーンDEXを利用する方法では、クロスチェーンに対応したDEXを利用することで、異なるブロックチェーン間での資産の交換を実現します。
クロスチェーンDEXでは、クロスチェーンDEXの独自トークンとペアの流動性を作成する必要があります。そして、DEXの独自トークンを介して交換取引が増えることによる遅延や追加手数料が生じます。
LayerZeroは相互運用性の問題をどのように解決するのか
LayerZeroでは、異なるブロックチェーン間と直接通信するトラストレスなレイヤーになることで、ブロックチェーンにおける相互運用性を確保します。DApps開発者は、LayerZeroが対応しているチェーンにDAppsを展開し、DAppsにLayerZeroを利用するための実装をすることで相互運用性の機能を利用することができます。
両チェーンのDAppsにLayerZeroが実装されている場合、それぞれのチェーンにLayerZero Endpoint(以下、エンドポイント)が存在しています。DAppsはエンドポイントとメッセージをやり取りすることで、相互運用性を確保します。
エンドポイントとメッセージをやりとりするのが、主に2つのコンポーネントです。「リレイヤー」はチェーン間の取引証明の中継を行います。そして「オラクル」は要求されたブロックヘッダーを入力元のチェーンから宛先のチェーンに移動させるタスクを担います。このように、エンドポイントと2つのコンポーネントが連動することにより、トラストレスなチェーン間の通信を実現します。詳しくはホワイトペーパーの6ページをご参照ください。
リレイヤーとオラクルが共謀するとLayerZeroを攻撃することができますが、それぞれは独立関係にあるため、そもそもの共謀が困難になっています。また、オラクルでChainlinkを利用している場合は、Chainlinkを突破する必要があるため現実的ではありません。仮に共謀したとしても、攻撃対象になる取引は数個程度になるため、被害を最小限に抑えることができます。そのため、従来のブリッジのように、トークンをロックしているコントラクトが攻撃されて大きな被害が出ることはありません。
LayerZeroのユースケース
ホワイトペーパーでは3つのユースケースが挙げられています。
- LayerZeroを用いたクロスチェーンDEX
- マルチチェーンイールドアグリゲーター
- マルチチェーンレンディング
LayerZeroを用いたクロスチェーンDEX
異なるブロックチェーンでも単一の流動性を使うことができ、流動性の断片化を防ぎます。
また、Aブリッジを介したトークンとBブリッジを介したトークンが異なり、ブリッジごとにトークンが増えていく問題を解決し、スムーズに別のブロックチェーンのトークンと交換できます。
マルチチェーンイールドアグリゲーター
イールドアグリゲーターとは、自動的に最適な投資方法を集約してくれるDAppsです。LayerZeroを用いることで、単一チェーンだけでなく複数のチェーンで投資戦略を立てることができます。
マルチチェーンレンディング
レンディングとは貸し出しのことを言います。マルチチェーンレンディングを用いることで、容易に新規チェーンに参入することができます。
例えば、Ethereumで資産を貸し出し、Polygonで資産を借りることで、容易に新規チェーンに参入することができます。
ホワイトペーパーで挙げられているユースケースは可能性のごく一部でしかなく、LayerZeroを活用したオムニチェーンNFTなどのユースケースもあります。