Ethereumのスケーリングソリューションとして知られているPolygonは、様々なソリューションを提供しています。今回は、Polygon Edgeチームでエンジニアをしているkourin氏に、Polygonのプロジェクトならびに自身が開発に携わるPolygon Edgeについてインタビューしました。
本記事は3部構成になっています。第2部では、kourin氏自身が開発に携わる独自チェーン構築のフレームワークであるPolygon Edge/Supernetsをより深掘りし、Polygonが最近力を入れていることについて、当事者の視点を訊いていきます。
▼まだの方は – 第1部

第2部:Polygon Edge/Supernetsとは?
Polygon Edge/Supernetsはどのようなソリューションなのか?
加藤:Polygon EdgeとSupernetsについて教えてください。kourinさんは、こちらのプロダクトを担当していますが、詳しく教えていただけますか?また、競合の類似サービスと比べた場合の優位性はどのようなものがありますか?
kourin:Polygon Edgeは、独自チェーンを構築するためのフレームワークです。これはコンソーシアムチェーンやプライベートチェーンのような仕組みを実現できるもので、限定的なバリデーターによって運営されるチェーンを構築することができます。構築されるチェーンはEVM互換になっているので、EthereumやPolygon PoS向けに開発したスマートコントラクトをそのままデプロイして動かすことができます。また、Ethereum向けのライブラリ、例えばweb3.jsやethers.jsをそのまま使うことができます。
Polygon Edgeでは、コンセンサスアルゴリズムとしてIBFT (Istanbul Byzantine Fault Tolerance) をベースとしていて、PoAまたはPoSを選択することができます。IBFTの特徴として、ブロックのファイナリティが即座に得られてフォークが発生しません。ですので、次のブロックの生成が開始された時点で、前のブロックのファイナリティが確定します。
また、ブロックチェーンのパラメータがいろいろあり、ユースケースに応じてユーザーが任意に変えることができるようになっています。
加藤:既に、具体的なPolygon Edgeのユースケースはあるのでしょうか?
kourin:既に35以上のサービスでPolygon Edgeが採用されています。いくつか例を挙げると、メタバースプラットフォームを提供しているKNOW Foundationや、スポーツ向けのベッティングプロトコルのSX Networkがあります。最近だとDogecoinのスマートコントラクト実行基盤としてPolygon Edgeをベースとして、Dogechainという独自チェーンが開発されています(参考記事)。
加藤:この中だと、個人的にDogechainが気になるのですが、これは$DOGEを使ってEVMのスマートコントラクトを実行できるということなのでしょうか?
kourin:はい、その通りです。Dogechainでは、$DOGEをスマートコントラクトの実行のための支払手段として使うことができます。これにより、$DOGEのユースケースが拡がっていきます。そのブロックチェーンのベースになっているのがPolygon Edgeということになります。
加藤:ユーザーから見るとPolygon Edgeを使っているというのはわからなさそうですね。続いて、Polygon Supernetsについて教えていただけますか?
kourin:Polygon Supernetsは、今年の春にアナウンスされたばかりの新しいサービスになります。いわばPolygon Edgeで構築された独自チェーンのためのホスティングサービスです。
Polygon Edgeを含め、独自チェーンを動かすためのフレームワークというのはいくつかあるのですが、このようなものを運用するには、セットアップ、監視、障害対応などをする必要があり、個々のチームに運用技術や知識が求められます。さらに自分たちだけではなく、外部からバリデーターを募って分散性を高める必要があります。そうなると、報酬設計モデルを考え、バリデーターを外部から募集する必要が出てきます。これは、Polygon Edgeだけでなく、Avalanche SubnetやBNB Application Sidechainでも同様の問題が出てくると思います。
Polygon Supernetsでは、Polygonがバリデータを準備します。これらのバリデータは、Ethereumメインチェーンのコントラクトに$MATICをステークして、報酬として$MATICを受け取ります。そのため、報酬の設計モデルを考えなくても済むようになります。また、PoSによってステークする$MATICに最初から価値がついているので、セキュリティを確保しやすくなり、初期段階から高い分散性や信頼がおけるバリデーターによってチェーンを動かすことができるようになります。
加えて、独自チェーンを提供するにはエクスプローラーやブリッジなどのツールも必要になりますが、Polygon Supernetsではそれも簡単に構築できる機能を提供します。また、技術支援や開発支援も提供する予定になっています。独自のフレームワークというよりは、Polygonが提供するフルマネージドのサービスと言う感じになります。
また、PolygonはこのSupernetsに1億ドルのエコシステムファンドを用意します。その一部は、初期ユーザーの導入支援に使われます。公式サイトの申込みフォームから応募して採用された初期ユーザーやPolygon Supernetsを初期コストなしで使用することができます。
加藤:主にSupernetを利用する想定ユーザーというのはありますか?
kourin:独自チェーンの利用は、主にゲームやメタバース分野を想定しています。この手のものは、トランザクション量が多くリアルタイム性が求められるからです。また、ユーザーの手数料の支払いを求めないこともできます。例えば、Axie Infinityは、サイドチェーンのRonin Networkを出していますが、我々も似たようなパターンを想定しています。
加藤:最近のトレンドとしてアプリ専用チェーンが増えていますが、そのようなものを想定しているわけですね。
現在Polygonが力を入れていること
加藤:現在、Polygonはプロジェクトとして現在どのようなことに力を入れていますか?
kourin:先ほど(第1部で)各ソリューションについて紹介しましたが、Polygonはロールアップ技術、特にzkRollupに力を入れています。Polygonの公式サイトにも明示されている通り、PolygonはEthereum向けのスケーリングソリューションを提供することを目標としています。Ethereum側のスケーリング戦略が、Ethereum2.0とロールアップなので、Polygonはロールアップに力を入れています。
Polygon Edgeチームに関しても、Polygon Supernetsのローンチがこの先にあります。ですので、僕らもそれに向けて頑張っているところです。
加藤:ちなみに、今はEthereumのトランザクション処理が遅いのでロールアップの意味が大きいと思いますが、Ethereum 2.0になって将来的にメインチェーンが速くなったときにLayer1にアプリケーションを直接デプロイすれば良いのではと感じることがあります。そうなると、Polygonの存在意義はどこにあるのかなと。
私自身は、エンジニアではないのでこのような考えに至ってしまうのですが、この点についてはエンジニアの立場から見るとどうなのでしょうか?
kourin:これはEthereum公式の議論なのですが、今はロールアップが先行している状況で、9月を目処にEthereum 2.0のMergeが行われます。最近の流れでは、Ethereum 2.0のシャードチェーンでは、ロールアップをデータの保存先として使いましょう、そしてユーザーのトランザクション処理をロールアップ上でやりましょうということです。そのようにすることで、相乗効果でさらにTPSや処理性能が上がっていくとみられています。ですので、現時点ではEthereum 2.0とロールアップを組み合わせましょうという流れになります。
今年の春にETH Amsterdamというイベントがあり、僕はそれに参加してきました。その中でLayer2に関するセッションがあり、色々な話を聞いている感じではロールアップは使われていくと思っています。
加藤:今のインフラストラクチャ領域では、チェーンをモジュラー化する流れになっていますが、Ethereum & Polygonもそのような方向性で進化していくのですね。
kourin:そうですね。PolygonではPolygon Availがブロックチェーンのデータ可用性を構成して、さらにロールアップがトランザクションの処理を行うので、単一のブロックチェーンではなくてモジュールごとに分けるというのが、これからの流れになると思います。
第2部の紹介
第2部では、Polygon Edge/Supernetsをより深掘りし、Polygonがプロジェクトとして最近力を入れている分野について訊いていきました。
第3部では、最近ブロックチェーン業界で働きたい人が多いことを踏まえ、業界で働くためには何をすればよいか。そして、技術者としてPolygonのどこが好きなのかなど、業界の最前線にいる立場としてのkourin氏の意見を訊いていきます。
▼第3部はこちら

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