インタビュー

【インタビュー】VeChain – Joy Zhang氏(後編)エンタープライズのブロックチェーン導入事情について訊く

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VeChain(ヴィーチェーン)は、エンタープライズに対してブロックチェーンソリューションを提供するブロックチェーン企業です。

他のエンタープライズ向けブロックチェーンと大きく異なるのが、パブリックブロックチェーンであるVeChainThor(ヴィーチェーン・ソー)を活用している点です。VeChainThor上では、暗号資産のVETとVTHOが発行されており、暗号資産のコア層にもよく知られています。

今回は、VeChainの日本コミュニティマネージャーであるJoy Zhang氏に、エンタープライズ領域でパブリックブロックチェーンを活用するために同社が独自に行っている取り組みについて伺いました(2020年7月)。

「VeChain」という言葉は、VeChainが開発するパブリックブロックチェーンに対しても使われることがありますが、本記事では、「VeChain」は企業名、「VeChainThor」はVeChainが開発したブロックチェーンを指すものとして用語を整理します。

本編は、前後編に分かれています。後編では、なぜ企業がブロックチェーンを導入できないのか、そして既にVeChainのソリューションを導入している事例について訊いていきます。

▼前編がまだの方はこちら

【インタビュー】VeChain - Joy Zhang氏(前編)エンタープライズ向けパブリックチェーンの先駆者に訊く
VeChain(ヴィーチェーン)は、エンタープライズに対してブロックチェーンソリューションを提供するブロックチェーン企業です。 他のエンタープライズ向けブロックチェーンと大きく異なるのが、パブリックブロックチェーンであるVeChainTho...

企業がブロックチェーン導入に踏み切れない理由

加藤:VeChainは、企業がブロックチェーンを導入しやすい基盤を整えているわけですが、一方で企業はブロックチェーンの導入をハードルに感じているようです。企業はどのよう点をハードルに感じていて、ブロックチェーン導入に踏み切れていないのでしょうか?

Joy:このテーマに関しては、実は企業にアンケートをとっています。

まずは、ブロックチェーンがビジネスの価値を生み出す実例が少ないということです。過去の成功例がないと企業は手を出さないです。これはどこの国でも同じなのですが、特に日本市場はその傾向が強いですね。

続いて、ブロックチェーンの技術がまだ未熟であるということです。ブロックチェーンへの不安やリスクです。例えば、急にデータが消えてしまったらどうなるのかなど。あと、暗号資産のせいで印象が悪い方が多いですね。ブロックチェーンについて最初からネガティブな印象を持たれていることがあります。暗号資産の場合は、バブルの印象が先行して、ビジネスシナリオに置き換えることが難しいようです。

他には、実装する際に成熟しているツールがないことです。また、顧客が内製で扱えるノウハウや余裕がない、構築能力がないというものもあります。センシティブな問題だと、プライバシーの問題もあります。パブリックチェーンなので、他から見られたらどうすればよいかということです。

この中で、ブロックチェーン導入に企業が踏み切れない一番の理由ですが、ビジネス価値になります。他はツールやアプローチの工夫で何とかなるのですが、この点は高いハードルです。

加藤:最近はブロックチェーンの導入事例が増えているので、ブロックチェーンへのビジネス価値を見出す顧客が出てきていると思うのですが、実際に導入前の顧客の態度はどうですか?

Joy:最近は、以前より積極的になりました。ブロックチェーン業界が市場を開拓しようと力を入れていますし、社会全体で見るとブロックチェーンの知名度も関心も上がってきました。ですので、とりあえずやってみましょうという感じで手を出す企業が増えてきました。

特に、今はCOVID-19によってデジタル化が加速してきているので、クライアントに訴求しやすくなっていると感じています。本来、日本はデジタル化が遅れているので、いきなりブロックチェーンに手を出すのは難しいですが、今はデジタル化せざるを得なくなっているので、私たちにとってはチャンスかなと思います。

加藤:皮肉なことに、会社の情シスよりもCOVID-19がデジタル化を促進しましたからね。

実際の顧客導入例

加藤:VeChainの場合は、VeChainThorを使って顧客にブロックチェーンのソリューションを提供していますね。しかも、事例が多いと思います。代表的な顧客事例をいくつかご紹介いただけますか?

Walmart Chinaの例

Joy:まずはWalmart Chinaの事例になります。特に中国では、食品安全の問題点が多くあります。偽物の粉ミルクや、賞味期限が切れた食べ物をパッケージし直して流通させていることがあります。

Walmart Chinaは、ToolChainの標準機能だけを使っているわけではありませんが、消費者は商品のQRコードをスキャンすることで、サプライヤーや流通過程の情報を手に入れることができます。

例えば、冷蔵が必要な商品は、今までは途中でトラブルが起きても追跡することができませんでしたが、IoTセンサーとブロックチェーンのタイムスタンプを組み合わせることによって、どこで問題が発生しているかを正確に追跡できるようになります。

ブロックチェーンを使うことで、安全性とブランディングのアプローチができ、自社のエコシステムで情報を共有しやすくなります。

情報の共有は、今までブロックチェーンを使っていなくても出来ていたものになります。ですが、ブロックチェーンを使うことで、タイムスタンプが正しくなり、データが改ざんできなくなりました。これにより、サプライヤーの問題を把握して改善しやすくなりました。また、消費者がたくさんアクセスした情報を、消費者の興味としてサプライヤーにフィードバックしやすくなりました。

この事例は去年の6月に正式アナウンスして、今でも継続しています。

Bayer Chinaの例

加藤:他には事例はありますか?

Joy:もう1つもサプライチェーンに関する問題で、製薬企業のBayer Chinaになります。中国における事例です。

製薬は、問題があると深刻化するため、とりわけ透明性を担保しなければならない分野です。VeChainThorを使った解決策としては、それぞれの薬品にIDを発行して、IDに紐付いたデータをIoTの技術などを活かしてブロックチェーンにデータをアップロードします。

これによって、ブロックチェーンに参加しているステークホルダー、例えば製造者や流通業者、病院や薬局がデータを共有することが出来るようになります。また、エンドユーザーとしてデータを参照できるWebも用意します。

加藤:薬に問題が起きたときの対処というのはもちろん重要だと思いますが、そもそも薬で偽物の問題は多いものなのでしょうか?

Joy:はい、昔はワクチンの偽物がありました。命に関わる問題になりますよね。従来だと、人々が手動で確認する方法がありますが、効率は良くありません。このような事例では、ブロックチェーンが強みを発揮しますね。

加藤:日本だと想像ができないことです。

BMWの例

Joy:続いて自動車になります。自動車業界では、自動車を中古に売る際に走行距離を改ざんされることがよくあります。

このようなデータをブロックチェーン上にアップロードすると改ざんできなくなります。自動車の中にIoT技術とデジタルパスポートを取り入れ、デジタルパスポートを経由してブロックチェーンにデータをアップロードするという仕組みです。

また最近では、事故が起きたときの問題や責任の所在は、車の走行データを見れば判ることが多くあります。保険会社にとっては、データが本物かどうかの検証をする必要がなくなるので、業務を効率化することができます。現在、デジタルパスポートの技術は、BMWで使われています。

上海ガスの例

Joy:これで最後になります。VeChainThorは上海ガスで活用されています。ガスの生産プロセス管理でToolChainが使われています。ガス産業では、事故が起きると被害が甚大になる場合があるので、常にデータのモニタリングを行っています。機械の操作記録や、生産量をブロックチェーンで記録していくようにしています。

加藤:今までの事例を総合すると、データの改ざんが大きな問題になるところでブロックチェーンが使われるということですね。特に採用事例が多いのは、どの分野や用途なのでしょうか?

Joy:サプライチェーンになります。今までは信用のコストが高かったので、そのコストを削減するためにもブロックチェーンを活用するべきだと思います。

加藤:信用のコストを削減できるというのは、企業にとってわかりやすいブロックチェーンの説明ですね。私も使わせていただきます!

VeChainからみた日本市場

加藤:VeChainは日本市場をどのように見ているのでしょうか?ポジティブに思っている点、ネガティブに思っている点を教えていただけますか?また、日本においてどのようなパートナーシップを求めていますか?

Joy:日本市場について感じるポジティブな点は、一つのことについてこれからやりましょうと決まったときに最後までやり遂げることです。

また、法律の面については、外国よりもクリアになっているので、ブロックチェーン技術のビジネス展開をするということにおいてはやりやすいと考えています。

VeChainは、他のブロックチェーンプロジェクトと考え方が違っていて、実際のビジネスを通じてブロックチェーンを広げていこうとしています。ですので、うまく日本のリソースを活かしてビジネスを展開していきたいと考えています。

ネガティブな点については、サンクコストに関しての感じ方が弱いのかなと思います。ブロックチェーンに対しての将来のバリューをあまり感じていなくて、導入を怖がる企業が多いです。あとは、意思決定のプロセスが長いという点です。

最初は改革するためのハードルがとても高いのですが、一度できたらどんどんフォロワーが増えていくというのが日本の良いところですね。

加藤:最初のハードルが高いということですね。私自身のSIer時代の経験からもよくわかります。多くの人が昔からある習慣を壊したいとは思わないようですね。

Joy:そうですね。それはブロックチェーンだけの話ではないのですけれども。

企業が既存のビジネスで儲かっている場合、それほど変わらなくても困らないと感じているように見えます。ですので、ブロックチェーンにものすごい価値を感じないと導入に至らないのだと思います。

新しい技術を導入する場合は、どこも必ずこのプロセスになりますね。

加藤:以前、私が別のプロジェクトを取材したときにも似たようなことを話している方がいました。やはりハードルはそこなのかなと感じます。

Joy:私たちが日本で求めているパートナーシップについてですが、VeChainはパブリックチェーンのインフラであり、実際のビジネスに対する標準化されたツールを提供しています。そのため、実際のビジネスに対して問題を解決できるパートナーを求めています。

私たちは、ビジネスの手前までの専門家なので、ビジネスのプロセスすべてをカバーすることはできません。だからこそ、ビジネスのプロセスを改善できるパートナーは重要なのです。

先程お伝えしたPwCのパートナーシップも、そのような考えからきているものになります。コンサルティングや認証機関、通信業界のようなところは、私たちと非常に相性が良いと思います。

加藤:自分たちのできるところとできないところをはっきりと認識して、できないところに対してパートナーを求めていくわけですね。他のブロックチェーン企業と求めているパートナーの傾向が違う印象があります。

今後の意気込み

加藤:最後に、読者の皆さんに意気込みを伝えて、このインタビューを締めさせてください。

Joy:私が伝えたいのは、先程述べたことです。私たちは、信用のコストが高いので、それを落とすためにブロックチェーンを使うべきだと考えています。

これからも日本で市場開拓をしていきますので、どうぞよろしくお願いします。

VeChainについて

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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