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Hedera Hashgraph ミアン・サミ氏 インタビュー 第3部 – Hedera Hashgraphをビジネスに応用する利点とは

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ブロックチェーンをはじめとする多くの分散型台帳は、ベンチャーコミュニティからDAppsが出ていき、次第に広まっていきます。一方で、Hedera Hashgraph(ヘデラ・ハッシュグラフ)は、暗号資産HBARを持ちながらも、全く逆となる大企業からの普及を狙っています。

今回は、Hedera Hashgraphのアジア統括責任者であるミアン・サミ氏にインタビューを行い、Hedera Hashgraphがどのように大企業に向けて分散型台帳を普及させていこうとしているのかを紐解いていきます。

本インタビューは全4部で構成されています。第3部では、エンタープライズチェーンの中でもパブリックな位置づけをとるHedera Hashgraphをなぜビジネスに利用すべきなのか、その利点を探っていきます。

第2部がまだの方は、先に以下のリンクをご覧ください。

Hedera Hashgraph ミアン・サミ氏 インタビュー 第2部 - 技術に対する裏付けとなる考え
ブロックチェーンをはじめとする多くの分散型台帳は、ベンチャーコミュニティからDAppsが出ていき、次第に広まっていきます。一方で、Hedera Hashgraph(ヘデラ・ハッシュグラフ)は、暗号資産HBARを持ちながらも、全く逆となる大企...

第3部 – Hedera Hashgraphをビジネスに応用する利点とは

公開台帳をビジネスに応用する利点

加藤:Hedera Hashgraphのターゲットになっているエンタープライズは、プライバシーなどの様々な理由により、Hyperledger FabricやCordaのようなコンソーシアムチェーンを選択することが多いです。それに対して、ヘデラハッシュグラフは公開台帳になっていますが、公開台帳をビジネスに応用する利点とは何なのでしょうか?

ミアン:これ良い質問ですね。図を見ながら説明してきます。真ん中に、先程お話したHedera Hashgraphのコンセンサスアルゴリズムがあります。そして、その上に2つのサービスレイヤーがあります。トークンサービス(Hedera Token Service: HTS)とコンセンサスサービス(Hedera Consensus Service: HCS)です。企業は、それぞれのサービスにAPIを使ってアクセスします。

Hedera Hashgraphのサービス構成

Hedera Hashgraphのサービス構成

ミアン:ここで大事なのが、レイヤーが分かれているということです。ヘデラハッシュコンセンサスがレイヤー0、トークンサービス(HTS)とコンセンサスサービス(HCS)がLayer1というイメージになります。

HTSは、Hedera Hashgraph上でERC20のようなトークンを、スマートコントラクトなしに簡単に作ることができるサービスです。こちらは、トランザクションが第三者に見えるようになります。パブリックな、イーサリアムやビットコインと似たユースケースを実現することができます。

HCSは、企業が好きにユースケースをカスタマイズできるサービスです。すべての情報を公開しても良いし、プライベートチェーンと併用して、情報をプライベートとパブリックのハイブリッドにすることもできます。

例えば、米国がデジタルドルを発行したとします。この場合、100%パブリックというのはありえないですよね。やるとしたら、許可された銀行のみがノードを立ち上げて、それ以外は立ち上げられないようにすると考えるのが自然です。そして、もっと広がるようにしていくはずです。このようなものは、プライバシーを確保しつつ、ある時点でパブリックにもアクセスできるようにしなければなりません。

デジタルドルだと、最終的に外貨と交換できるようにする必要があります。そして、一般市民が使えなければいけません。これらの部分にはパブリックなアクセスが必要になります。実際にガバナンスを行い、実際の取引が見えるのは、プライベートチェーンで構成されるコンソーシアムの中になるわけです。ですので、我々が金融機関や企業と進めているのは、プライバシーを保ちつつパブリックも利用するユースケースです。このようなユースケースにはHCSが適しています。

他にも、HCSにはメリットがあります。企業が完全中央集権なHyperledger Fabricを使っている場合、いきなり100%パブリックに移行するのは無理なので、今まで作ったユースケースをそのままにして、一般公開しても良いものはHCSに投げて、HCS側はHyperledger Fabricに順番を付けて戻すということができます。

HCSがやることは、「いつその事実が確認できたか」というタイムスタンプを付けることです。「何をしたか」というのはプライベートチェーン側でやるのですが、「いつ」というタイムスタンプがつくことによって、「いつ」と「何が」が両方合わせて、事実が証明できるようになります。

加藤:Hedera Hashgraphの強みというのは、HCSで見た場合だと、企業をクローズでやっていた世界を外に出す場合に、プライバシーを確保しつつ情報を公開できるわけですね。

ミアン:先程の例は、プライベートチェーンを繋いだ場合ですが、プライベートチェーンに限らず、データベースとつなぐという方法もあります。また、企業のプライベートチェーンを、HCSを使って相互接続することもできるようになります。

加藤:つまり、HCSは企業が扱うデータの相互接続性を実現しやすくなると。

ミアン:これに関して、面白い記事があります。「Creating a more interoperable blockchain future(日本語訳:より相互運用可能なブロックチェーンの未来を創造する)」があるので、お時間がある方は是非そちらを読んでみてください。Hyperledger FabricとHCSを使った場合の具体的なメリットが簡潔にまとめられています。

加藤:振り返ると、Hedera Hashgraphがやろうとしているのは、既存のものを置き換えていくというよりは、それらを相互につないでデータに信頼性ををつけていくということなのですね。

ミアン:その通りです。Hedera Hashgraphが目指しているのは、価値が関与するインターネット上にあるすべての取引にタイムスタンプを付与することです。あとは、他のチェーンで使って良しです。Hedera Hashgraphだけが生き残って、みんな死ぬということではないですよ(笑)

公開台帳の利用ハードルをどのように解決するのか

加藤:企業が公開台帳を利用するには、暗号資産の存在など、他のエンタープライズチェーンにはない公開台帳特有のハードルがあると思います。Hedera Hashgraphの場合は、そのようなハードルに対してどのように対処するのでしょうか?

ミアン:まず、プラグインの提供があります。企業に対しては、イチから全部Hedera Hashgraphで作ってくださいということはありません。企業が既にHyperledger FabricやCordaを使っている場合、プラグインによってHedera Hashgraphを導入しやすくなります。

加藤:Hedera Hashgraphだとトランザクションの実行でHBAR(Hedera Hashgraphの暗号資産のこと)を消費しますが、企業から見るとHBARのカストディや会計処理、そもそもそれを扱える人が居なければいけないという問題があります。これらをどのように解決しますか?

ミアン:これは仰る通りで、結構なハードルです。HBARの数量が少ないとしても、ほとんどの大企業で会計や監査、カストディ、そしてそれらを稼働するために暗号資産の知識が必要になります。これは教育するしかありません。

また、これらの問題はHedera Hashgraphのエコシステムを通して解決するようにもしていきます。例えば、運営審議会の企業によっては、自分たちでHBARを触りたくないというところもあるかもしれません。その場合、カストディアンのBitGoやLedgerと個別契約して、これらの問題を解決するという方法もあります。

他にも、ノードの運用を第三者にアウトソースできる枠組みが存在しています。また、GAS代を払うアカウントを別にすることができます。ユースケースを実装している会社がHBARを扱えない場合でも、第三者にドルを払って、第三者から取引コストをHBARで支払ってもらうことができます。このように、HBARの取り扱いはエコシステムのパートナーを通して解決していきます。

加藤:現実的なアプローチですね。他にHedera Hashgraphの利用ハードルを下げる取り組みはありますか?

ミアン:スマートコントラクトを知らなくても、Hedera Hashgraphを扱えるようにしています。スマートコントラクトを書くと、監査も大変ですし、問題があった時も大変なので、HTS(Hedera Token Service)ではスマートコントラクトを使わなくて済むようにしています。我々はSDKが非常に充実しており、企業は普段から開発で親しんでいる言語(JavaScript, Java, GO, .NET)さえ知っていれば良いようにしています。興味がある方は、是非開発者ドキュメントを読んでみてください。

それに加え、ツール類を充実させています。Google Cloudでは、Hedera Mirror Nodeを使うことでテスト向けの環境を簡単にデプロイできようになっています。「えいや!」で試験環境を簡単に作ることができます。Azure, AWSでも同様のことができるようになっています。

また、企業によっては規格が重要です。みんなでトークン規格を決めるコンソーシアムのInterWork Allianceを、Hedera Hashgraphが設立メンバーとして立ち上げています。また、DIFでは、トークン規格や分散型ID(DID)の規格、ステーブルコインの規格など、どのような規格をHedera Hashgraphに入れたら業界のスタンダードになるのかに取り組んでいます。結構すごいでしょ?(笑)

HBARの役割・HBARを持つメリット

加藤:Hedera Hashgraphは、エンタープライズ向けの公開台帳でありながら、暗号資産が存在するという側面があります。HBARは、ヘデラハッシュグラフのネットワーク上でどのような役割を果たすものなのでしょうか?

ミアン:HBARの役割は、手数料となるGASの役割、Proof of Stake(PoS)において「1HBAR = 1投票権」の役割を担います。HBARは、Hedera Hashgraphのプラットフォームにはなくてはならない存在です。Hedera Hashgraph上での取引はProof of Stakeによって承認されます。つまり、HBAR保有者がHBARを投票権代わりに使用して毎取引に投票をしながら承認していきます。1つの取引において、3分の2以上の投票で取引が承認されます。HBARについての詳しくは、HBARの説明ページから知ることができます。

なぜ我々が許可型ノードからスタートして、非中央集権化への道を5から10年かけてやるのかというと、HBAR(プラットフォームの投票権)を最初からすべて流通させてしまうと悪意のあるものによってプラットフォームが取得されてしまうからです。そのようなことが起こらないようにHBARの価格推移と世界的分散の度合をみながら徐々にマーケットに流通させていかなければならないのです。そして、最初の少なくとも5年間はマーケットに3分の1以上のHBARが流通しないようになっています。そのため、コンセンサスが悪意のある人によって変なことになるということはないと考えています。

加藤:もう1つ、プロジェクトの立場だと回答しにくいテーマだと思いますが、投資家からの視点でHBARを保有するメリットについて教えていただけますか?

ミアン:投資家としてHBARを持つメリットですが、前提条件としてHBARはセキュリティトークン(=証券をトークン化したもの)ではなく、ユーティリティトークンであるということです。セキュリティトークンの定義は、大まかにはHoweyテストで「作った人たちや限られた人たちの行動によって、そのトークンの価値が左右される」というものになります。

そして、HBARの価値は、Hedera Hashgraphをもともと作った人たちや、経営者や従業員のような特定の人たちの行動によって左右されるのではなく、コミュニティ全体の活動や実需によって左右されます。コミュニティが誰なのかというと、Hedera Hashgraph上で開発されているユースケースです。コミュニティがあらゆる認知度向上、情報公開、アプリケーションへの採用などをすることで、第三者によってHBARの価値が決まっていきます。我々運営は、コミュニティがHedera Hashgraphでアプリケーションを作りやすくなるための手助けをしているだけです。

だから、投資家目線におけるHBARを保有するメリットというのは、投機目的であれば言及できないですし、わかりません。ただし、HBARの価格が実需に依存するのであれば、見るべきところはHedera Hashgraphのトランザクション数やアカウント数などのネットワークアクティビティになります。これらは、以下のサイトから確認することができます。

このようなデータを見て、はじめて実需がわかるようになります。ネットワークの実需が増えたら、HBARの需要が増えるという観点があります。より広義に考えると、ユーティリティトークンの価値依存というのは、コミュニティの大きさ、それらの行動がどれだけ活発なのかということです。BTCやETHは、ネットワークのアクティビティで価値が決まってくる側面がありますが、HBARもそれらと変わりません。

最近、私はほぼ毎日Hedera Hashgraphのユースケースを公開していますが、それらのユースケースがどれだけの取引を可能にするのか?単純にそれだけを足したりするだけでも、方向性がわかるのではないでしょうか。

第4部へのつなぎ

第3部では、企業がHedera Hashgraphをビジネスに利用するメリットや、HBARの保有意義についてお伝えしていきました。

最後となる第4部では、Hedera Hashgraphのユースケースを中心にお伝えします。

▼第4部はこちら

Hedera Hashgraph ミアン・サミ氏 インタビュー 第4部 - Hedera Hashgraphのユースケース
ブロックチェーンをはじめとする多くの分散型台帳は、ベンチャーコミュニティからDAppsが出ていき、次第に広まっていきます。一方で、Hedera Hashgraph(ヘデラ・ハッシュグラフ)は、暗号資産HBARを持ちながらも、全く逆となる大企...

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この記事を書いた人

TOKEN ECONOMISTのDirector。「ブロックチェーンによる少し先の未来を魅せる」をポリシーに、注目しているプロジェクトの紹介やインタビューを行っています。

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