Terraの$USTを中心に、チェーン標準のステーブルコインが大きな流れとなっています。NEARでは、Decentral Bankと呼ばれるDAOのプロジェクトが主導のもと、ステーブルコインの$USNが発行されています。
USNの概要
$USNは、NEAR上で発行される”ネイティブ”ステーブルコインです。分散型でありながら「1 USN=1ドル」の価値を維持するように設計されています。スマートコントラクトに入金した$NEARの現在価格と同額の$USNが手に入るようになっており、$USNをスマートコントラクトに入金すると「1 USN=1ドル」のレートで$NEARを償還することができます。
$USNを1ドルの価値に維持するために、$USNは裁定取引とカレンシーボード制に基づく準備金に支えられています。準備金は、$USNの価値の裏付けであり、$NEARの他にステーブルコイン(初期段階では$USDT)が採用されます。
$USNを使うことで、NEARのエコシステム全体の発展が期待できる他、将来的には$USNでレンディングを行い、多くの取引所で$USNが扱えるようになり、NEARに対応したウォレットでワンクリックで$NEARと$USNをスワップできるようになる予定です。
USNの発行の仕組み
$USNは、スマートコントラクトに入金した$NEARのドル相当の額に応じて「1 USN=1ドル」のレートに基づき$USNを発行することができます。また、スマートコントラクトに$USNを入金することで、「1 USN=1ドル」のレートに基づき$NEARを償還することができます。
例えば、1 NEAR = 10.5ドルの場合、1 NEARをスマートコントラクトに入金すると10.5 USNが発行されます。また、1 USN = 0.99ドルだったとしても、10 USNをスマートコントラクトに入金すると10ドル分の$NARを手に入れることができます。
USNの価格維持の仕組み
$USNは、1ドルにソフトペグしているため、必ずしも「1 USN=1ドル」になるわけではありません。そのため、価格維持の仕組みが必要になります。$USNでは、この仕組みについて主に市場参加者による裁定取引と、カレンシーボード制の準備金によって実現します。
市場参加者による裁定取引
$USNが取引所で自由に取引されている状況において、$USNは市場参加者による裁定取引で「1 USN=1ドル」を維持します。
$USNが1ドルを下回る場合
1 USN = 0.99ドル になっている例を見ていきます。この場合は、$USNの買い圧力が生じるため、$USNの価格は1ドルに近づいていきます。仕組み:
- アリスは、取引所で99ドルを使って「1 USN = 0.99ドル」のレートで100 USNを購入します。
- アリスは、Decentral Bankのスマートコントラクトに100 USNを送信すると、アリスは100ドル相当の$NEARを受け取ります。
- アリスは、取引所に$NEARを売却することで100ドルを受け取ります。これによりアリスは1ドルの利益を手にします。
$USNが1ドルを上回る場合
1 USN = 1.01ドルになっている例を見ていきます。この場合では、$USNの売り圧力が生じるため、$USNの価格は1ドルに近づいていきます。
- アリスは、取引所で100ドル分の$NEARを購入します。
- アリスは、Decentral Bankのスマートコントラクトに$NEARを送信すると、アリスは100 USNを受け取ります。
- アリスは、取引所に100 USNを売却することで101ドルを受け取ります。これにより、アリスは1ドルの利益を手にします。
カレンシーボード制の準備金
$USNは、カレンシーボード制の準備金を用意することで「1 USN=1ドル」を維持します。カレンシーボード制とは、もともとは為替政策の1つで、国内に流通する自国通貨に見合った米ドルを中央銀行が保有することで通貨の価値を維持する仕組みです。この仕組みが$USNに取り入れられています。
$USNの価値は、Decentral Bankのスマートコントラクトにプールされた$NEARに裏付けられてています。もし、裏付け資産が$NEARしかない場合、$NEARが暴落するとプールされている$NEARの総額は、発行済の$USNの総額を下回ることになります。これでは「1 USN=1ドル」を維持できないことに繋がり得るので、Decentral Bankは他のステーブルコインによる準備金を用意します。
最初の準備金として、Decentral Bankは$USDTを使用します。初期段階において、$USNが1に対し、$NEARが1、$USDTが1の割合で裏付け資産が用意されます。つまり、$USNは1:2の過剰担保により成り立つことになります。
準備金による$USNの価格維持は、外部のAMM DEXである「Ref Finance」を使って行われます。Ref Financeには、価格が近い資産のスワップに最適化された流動性プールを作る機能である「StableSwap」があり、StableSwapにより$USNの価格の安定化を行います。StableSwapには、USN-USDTの流動性プールが用意されます。$USNが購入されると、流動性プールにおける$USDTの量は増加します。これにより、$USDTの準備金が増加することになります。
StableSwapの流動性プールは、Decentral Bankのスマートコントラクトによって自動管管理、リバランスされます。プールの$USNと$USDTの数量の変化によって、$USNが発行され流動性プールに追加されたり、流動性プールから$USNが引き上げられバーンされたりします。
初期段階における準備金を使った価格維持はRef Financeだけであるものの、将来的には3から4つ程度の流動性プールに拡張される予定です。
NEARが暴落した場合にどうなるのか?
$USNの場合、最も危惧されるのは$NEARの価格が上昇している局面において$USNが積極的に発行され、その後に$NEARが暴落して、$USNの発行総額が、準備金の$NEARの残高を大幅に上回ることです。この場合、$NEARが償還不能に陥るため、連鎖的に周辺エコシステムもデフォルトになる「デス・スパイラル」が起きる可能性があります。
Decentral Bankでは、過去データを使った綿密なシミュレーションによりデス・スパイラルが起きることはないとしています。一方で、デス・スパイラルが起きた場合の対処法も考えています。現状では、以下の2つのデス・スパイラルのシナリオがあり、それぞれの対処法が考えられています。
- $NEARの価格が大幅に下がった場合:予め定義された条件に達した場合に、自動的に準備金のステーブルコインを利用して$NEARの購入を行います。
- 短期集中的な$USNの売り浴びせ(ダンピング):スマートコントラクトによる準備金リバランスの仕組みにより、準備金($NEAR + ステーブルコイン)の残高は、常に$USNの発行額の100%以上を満たすように調整されています。また、価格オラクルが短期的な価格変動から保護されるようになっています。
USNが手に入る場所
- Sender Walletで、$NEARを使って$USNを購入する。
- Ref FinanceのStableSwapで$USDTを使って$USNを購入する。
- (将来)中央集権型取引所、NEAR以外のチェーンにおける分散型取引所(DEX)で$USNを購入する。