価格変動が何かしらの現実資産に連動(ペグ)するステーブルコインは、様々な試みが行われています。その中でも、業界における新しい取り組みがアルゴリズミックステーブルコインです。今回は、米ドルに連動したUXD Protocolを解説します。
UXD Protocolの概要
UXD Protocolは、暗号資産のデルタニュートラルポジションに100%価値が裏付けされた、アルゴリズミックステーブルコイン*1です。Solanaブロックチェーンを使ってUXDが発行され「1 UXD = 1 USD」にペグするようになっています。また、UXD ProtocolのガバナンストークンとしてUXPが発行されます。初期段階では、デルタニュートラルポジションの暗号資産はビットコインのみが対応します。
今までのステーブルコインは、何かしらの要素が犠牲になっていました。Tether(USDT)のような実資産担保型のステーブルコインは、資金効率と価格の安定性が高いものの、発行体のリスクが存在しています。そのようなリスクを回避するために作られた分散型の仕組みでも、なおも犠牲になる要素が存在しています。暗号資産担保型ステーブルコインの例として、MakerDAO(DAI)は、過剰担保をとるために資金効率が犠牲になっています。また、アルゴリズミックステーブルコインの例として、Empty Set Dollar(ESD)は、価値の裏付けが100%に満たず、実際にペグが外れて安定性が犠牲になっています。
UXD Protocolでは、デリバティブDEXでデルタニュートラルポジションを利用することにより、分散型の仕組みにも関わらず、過剰担保が不要で資産効率が100%、価値の裏付けが100%のアルゴリズミックステーブルコインを実現します。さらに、ステーブルコインとしては珍しく、UXD保有者に金利収入が入るようになっています(プロジェクトが進捗した段階で金利収入が導入される予定)。
なお、UXD Protocolは、Multicoin CapitalやAlameda Research、Solana財団などから約3.3億円を資金調達したことでも話題になりました。
弊サイトでは、UXD ProtocolのFounder & CEO 稲美建人氏にインタビューを行いました。興味がある方は併せてそちらの記事もご覧ください。
▼インタビュー前編
▼インタビュー後編
*1 アルゴリズミックステーブルコインとは、何かしらのアルゴリズムで価格変動を抑えるステーブルコインです。価値の裏付けが100%ではない場合もあります。代表的な例:UST, FEI, UXDN, ESD
[用語解説] デルタニュートラルポジションとファンディングレート
UXD Protocolを理解する上で、デルタニュートラルポジションへの理解は欠かせません。この章では、デルタニュートラルポジションと、デルタニュートラルポジションに関わるファンディングレートの説明を記載します。
デルタニュートラルポジションとは
デルタニュートラルポジションとは、暗号資産の現物を保有したまま、それと同数量の無期限先物をショート(空売り)することです。これにより、現物の価格が上下しても、ショートした無期限先物により現物の損益を相殺するため、現物と先物の損益合計は必ずゼロになります。これは一見得をしないように見えますが、もちろん意味があります。無期限先物をショートすると、高い確率でファンディングレートによる金利収入を得ることができるからです。
つまり、デルタニュートラルポジションは、キャピタルゲインを放棄することと引き換えに、金利というインカムゲインを高確率で得るための手段となります。
ファンディングレートとは
ファンディングレートとは、無期限先物を価格調整するための仕組みです。
従来の先物には、限月と呼ばれる決済期限が存在しています。決済期限が到来すると、最終的に先物と現物の価格が一致して清算が実行されます。一方で、無期限先物には決済期限が存在しないため、先物と現物の価格を乖離させない仕組みが必要になります。それが金利を利用した仕組みであるファンディングレート(資金調達率)です。取引所は、トレーダーから金利を徴収もしくは付与することで、先物と現物の価格が乖離しないようにします。
ファンディングレートは、大まかには以下のように決定されます。厳密には、より細かい条件などがあります。
- 無期限先物が現物より高い場合:先物価格を押し下げる圧力を発生させるために、ロング(買い)側に金利を課します。ロング側が支払った金利は、ショート(売り)側に付与されます。
- 無期限先物が現物より安い場合:先物価格を押し上げる圧力を発生させるために、ショート(売り)側に金利を課します。ショート側が支払った金利は、ロング(買い)側に付与されます。
市場は年間を通して、前者の期間が長い傾向にあります。そのため、基本的にショートをすると金利収入が得やすくなります。しかし、市場状況によって逆の場合も起こり得ます。以下は、FTXにおけるファンディングレートの推移です。真ん中のゼロラインよりチャートが上にある場合はショート(売り)側が金利を獲得し、下にある場合はロング(買い)側が金利を獲得しています。
UXD Protocol の仕組み
米ドルにペグしたステーブルコインUXDは、UXD Protocol Vaultを通して行われます。デリバティブDEXにより発生した金利は、ガバナンスにより付与先が決定されます。初期は保険金ファンド(後述)のみに付与され、後にUXD保有者にも付与されます。
UXDの発行
UXDを発行するには、UXD ProtocolにBTCを入金します。その後、入金と同額のUXDが付与され、さらに継続的に金利も付与されます。発行の流れ:
- ユーザーは、BTCをUXD Protocolに入金します。
- UXD Protocolは、UXDを発行し、入金したBTCと同額のUXDをユーザーに渡します。
- UXD Protocolは、デリバティブDEX(Mangoなど)にて、BTCを担保に同数量の無期限先物をショート(空売り)して、デルタニュートラルポジションをとります。
- デルタニュートラルポジションにより、デリバティブDEXで発生した金利が付与されます。
UXDの返還
BTCを手元に戻すには、UXD ProtocolにUXDを入金します。その後、入金と同額のBTCが付与されます。返還の流れ:
- ユーザーは、UXDをUXD Protocolに入金します。
- UXD Protocolは、デリバティブDEXのデルタニュートラルポジションを解消します。
- UXD Protocolは、入金したUXDと同額のBTCをユーザーに渡します。
保険金ファンド
保険金ファンドは、デルタニュートラルポジションがある状況下でショート(売り)側が金利を支払う局面で使用されます。つまり、UXD保有者は金利を支払わなくても済みます。
もし、保険金ファンドが不足した場合は、UXD ProtocolのガバナンストークンUXPがオークションで売却され、ファンドの原資になります。しかし、これは最後の手段です。
UXD Protocol の特徴
資金効率が良い(100%価値裏付け)
UXD Protocolでは、デルタニュートラルポジションを取るため、MakerDAO(DAI)のような暗号資産担保型ステーブルコインにある担保資産の価格変動影響を受けることがありません。MakerDAO(DAI)では担保を差し出してステーブルコインを”借りる”のに対し、UXD Protocolでは担保を差し出してステーブルコインを”交換”します。そのため、UXD Protocolでは過剰担保する必要がありません。
金利収入が得られる
UXD Protocolは、UXDを保有するだけでデルタニュートラルポジションからもたらされる金利を得ることができます*1。しかも、無期限先物のショート側が金利を支払う局面においても、UXD保有者は金利を支払う必要がありません。ただし、同局面では金利収入は一時停止します。
*1 金利収入は、UXD Protocolの初期段階は保険金ファンドにすべてが振り向けられますが、その後はUXD保有者に対しても支払われます。
UXPトークン
UXD Protocolでは、プラットフォームトークンとしてUXPを発行します。
ユーティリティ
UXPは、以下の用途に使用されます。
- ガバナンス
- デルタニュートラルポジションからの金利の分配(ガバナンス投票によって決定)
- 保険金ファンドが不足した場合の原資
トークン配分
UXPトークンは、100億UXPが発行され、以下の割合に基づいて配分されます。
- 20%:チーム
- 15%:投資家
- 57%:コミュニティ
- 5%:予約
- 3%:トークンセール
UXPトークンの取り扱い取引所
UXD Protocolに関する情報
- UXD Protocol Webページ
- UXD Protocol Twitter
- UXD Protocol Discord
- 稲見建人氏 個人Twitter(日本語)
- 稲見建人氏 個人Twitter(英語)