Gnosis Chainの概要
Gnosis*1 Chainは、Ethereumとの互換性を持ち、役割が異なる2つのトークンによって構成されたパブリックブロックチェーンです。EVM互換のサイドチェーンにあたるため、Ethereumメインネットのセキュリティを引き継がず、独自のバリデータによって構成されています。Gnosis Chainは、2018年10月に誕生し、2021年11月にxDAI Chainからリブランディングしました。
Gnosis Chainでは、PoS (Proof of Stake) を採用しているため、送金やNFT発行のために必要なGASが非常に安いことが特徴としてあげられます。また、1つの取引に関わる電力消費が少ないため、環境負荷が少なくて済みます。
そして一番の特徴が、GASに用いるネイティブトークン「xDAI」が米ドルに連動するステーブルコイン「DAI」と連動している点です。これにより、Gnosis Chainは、ドル経済圏との強い親和性を持ちます。事業者は保有するトークンの価格変動リスクを最小限に抑えることができ、xDAIさえあればGASと決済に使うトークンを統一することができるため、管理の手間を最小限に留めることができるようになります。
以下は、Gnosis Chainの特徴を簡単にまとめた表になります:
Ethereumとの互換性 | 互換性あり |
---|---|
コンセンサスアルゴリズム | PoS |
ネイティブトークン | xDAI |
バリデータトークン | GNO |
TPS | 最大119(スケーリング可能) |
エクスプローラー | Gnosis Chain Explorer |
公式ドキュメント | https://www.xdaichain.com/ |
テストネット | https://www.poa.network/for-developers/developer-resourses |
Gnosis Chainが解決する課題
Gnosis Chainでは、GASに用いるトークンの価格が安定していることで、他のブロックチェーンの課題を解決します。
EthereumやPolygonでブロックチェーンを使って何かしらの決済を行う場合、特に事業ではUSDTなどのステーブルコインを使って決済することが多くあります。しかし、これにはETHやMATICのような、別途GASに用いるトークンを用意する必要があります。実用の観点から、理想はGASに用いるトークンと決済で利用するトークンが統一されていることです。
現実的に、普段ドルや円などの価格が安定している通貨を使っているユーザーが、価格変動の激しいトークンを使って決済を行うことは困難です。なぜなら、ほとんどのユーザーが法定通貨相当の価値に換算を行い、判断するためです。例えば、NFTの購入やGASを支払う際に、13 MATIC や 0.01ETHと言われても、それが高いのか低いのかをすぐに判断することは難しく、速やかに意思決定することができません。しかし、日本円で4,000円と言われれば、他に4,000円の価値あるもの(飲食代や交通費)と比較し、その価値が自分にとって高いか低いかを判断することで、速やかに意思決定を行うことができます。
そのため、EthereumやPolygonでは、事業者はユーザー向けの決済手段としてUSDTなどのステーブルコインに対応する必要があり、それらを送金できるようにするために別途GAS用のトークンを用意する必要があります。しかし、GAS用のトークンを保有すると価格変動リスクを受けることになります。
加えて、日本の場合は、GAS支払いのためにETHやMATICを事業目的で大量に保有していると、期末に時価評価を行う必要があります。さらに、含み益があると課税されるため、大量に保有することにはリスクが伴います。
Gnosis Chainは、GASに用いるトークンが米ドルと連動しているステーブルコインになるため、ドル経済圏にいるユーザーの決済手段として不都合がありません。そして、事業者も別途GAS用のトークンを用意する必要がなく、手数料目的で大量に保有していても価格変動の影響を抑えることができます。
「xDAI = 1ドル」の価格維持の仕組み
Gnosis Chainの最大の特徴は、GASに用いるトークン xDAI の価格が米ドルと連動し、安定していることです。注意点として、Gnosis ChainにおけるGAS代そのものは変動的であり、安定しているのはあくまでもGASに用いるxDAIの価格であるということです。また、xDAIそのものは直接米ドルと連動しているわけではなく、「米ドルと連動しているDAI*1」と連動しています。
Gnosis ChainのGASに用いるxDAIの価格が安定している理由は2つあります。
1つ目がGnosis Chainの価値と連動するGNO(旧STAKE)とGASに用いるxDAI、この2つのトークンで構成されたデュアルトークンモデルを採用しているためです。つまり、Gosis Chainでは、トークンが投資目的と利用目的に分離されています。
一般的に、ブロックチェーンのトークン(ETHやSOLなど)を保有する目的は、そのブロックチェーンの需要が増加し、ユーザーが増加することによる価格変動を狙う投資目的と手数料として保有する利用目的があります。
単一トークンの場合は、投資目的と利用目的が混在しています。これらの目的が混在している状態で、ブロックチェーンの需要が増加すると、手数料に用いるトークンの価格も上昇します。この価格変動は、事業者が手数料支払いのためにトークンを調達するコストに影響するため、事業者は既存の外貨とは比べ物にならないほどのトークンの激しい価格変動リスクを負うことになります。
Gnosis Chainのトークンでは、投資目的の役割をGNOが担い、利用目的の役割をxDAIが担います。手数料に利用するxDAIは、ブロックチェーンの需要変化によるトークン価格変動の影響を受けなくなるため、GASに用いるトークンのxDAIの価格が安定します。
2つ目が、xDAIがEthereumメインネットのDAIと連動しているため、価格が安定しているという点です。
Gnosis ChainにおけるxDAIの発行は、ブリッジの仕組みを利用します。Ethereumメインネット上のDAIをコントラクトにロックすることで、Gnosis Chain上で同額のxDAIが発行されます。また、逆にGnosis Chain上のxDAIをバーンすることで、同額のDAIをEthereumメインネットに戻すことができます。
xDAIは、米ドルと連動しているDAIと1対1で対応しているため「1 xDAI = 1 DAI = 1 ドル」の関係になり、GASに用いるxDAIの価格が1ドルで安定します。
Gnosis Chainのエコシステム
Gnosis Chainには、既に様々なサービスが展開されています。有名なものではSushiSwapやCurve Financeがあり、他にはDAOツールやDeFi、NFTマーケットプレイスなど、基本的なものが揃っています。詳細は、公式ドキュメントのプロジェクト紹介ページから確認することができます。
ウォレットに関しては、Gnosis ChainがEVM互換であるため、基本的にEthereumが対応しているウォレットには対応しています。対応ウォレット一覧は、公式ドキュメントのウォレットページから確認することができます。
今回は、筆者がおすすめするGnosis ChainのユニークなDAppsやウォレットを紹介します。
[ウォレット] Burner Wallet
Gnosis Chainに対応するユニークなウォレットとして、Burner WalletとBurner Wallet 2があります。
Burner Walletは、その名の通り資産を保管するウォレットとして利用することは推奨されていませんが、短期的なイベントやブロックチェーンを触ったことない人への説明や無価値なトークンをやりとりするツールとして有用です。
ブロックチェーンの凄さを手っ取り早く実感したり、説明するためには、実際に送金体験をしてもらうのが最も早く、興味を引かせるきっかけとして有効です。しかし、送金体験を行うためには相手に何かしらのウォレットを導入してもらう必要があるものの、MetaMaskなどでは導入障壁が高すぎます。しかし、Burner Walletを使うことで、導入障壁を取り除き、簡単にブロックチェーンの凄さを実感してもらうことができます。
Burner Walletは、スマートフォンやPCでサイトを開くと、ブラウザに紐づいたウォレットを作成することができます。URLを相手に読み込ませればすぐにウォレットを作成できるため、URLを下記のようにQRコードに変換し、一般人にカメラで読み取ってもらうだけで、トークンを受け取ることができる状態になります。
Burner Wallet:https://xdai.io/
Burner Walletをカスタマイズ可能にしたのがBurner Wallet 2です。Burner Wallet 2では、自分が発行したトークンを追加することができます。
カスタマイズ例として、JPYCとHMty(濱口幹久感謝トークン:筆者のオリジナルトークン)が対応したBurner Wallet 2があり、実際に利用することができます。ただし、資産を保管するウォレットとしてはセキュリティが弱いので、利用する場合は自己責任でお願いします。JPYCとHMty対応のBurner Wallet:https://jpyc.unpland.com/
[DApps] Smart Invoice
Smart Invoiceは、コントラクトで制御された請求書支払いを簡単に作成することができるDAppsです。Smart Invoiceで作成されたすべての請求書データはIPFSに記録されます。
Smart Invoiceでは、マイルストーンごとに発注側が資金をデポジットすることで、受注側は発注側の資金力を確認しながら開発をすることができます。DAOへの受託開発を依頼する際や、フリーランスでの受託開発で行う場合、このようなツールの重要性が増すことになります。
下記画像は、筆者が作成した1xDAIの請求書の例です。プロジェクト開始日や終了日の他、設定した期日を過ぎるとクライアントがデポジットしたお金を引き出すことができる日付「Safety Valve Withdrawal Date」が設定されています。また、何かトラブルがあった場合にLexDAOが仲裁者として介入するようになっています。
[DApps] Aragon
Aragon(解説記事)は、DAO作成ツールです。Gnosis Chainの他、PolygonやEthereumにも対応しています。ユーザーは、組織形態のテンプレートを選択し、投票割合などを設定し、投票のための独自のガバナンストークンを発行してDAOを作成します。作成したDAOに資金を預けることが可能で、預けた資産をガバナンストークンを使って投票を行い、資産を引き出すことができます。
[DApps] Orchid
Orchidは、Gnosis Chainを利用した従量課金型のVPNサービスです。Macやスマートフォン(iOS/Android)に対応しており、ユーザーは使用した帯域に応じて支払いを行います。帯域の価格は、1 GBあたり0.06ドルになります。また、クレジットカードを利用したアプリ内課金にも対応しており、ユーザーの利用敷居が低くなっています。
Gnosis Chainにリブランディングした経緯
2021年11月8日、xDAI ChainがGnosis Chainへリブランディングする提案が行われました。トークンを用いて投票ができるDApps「Snapshot」で投票が行われた結果、93%以上の賛成票のもと Gnosis Chain へのリブランディングが決定しました。
提案背景として、xDAI Chainがプロジェクトの”経由地”として利用されており、将来的にプロジェクトが他のチェーンに移行してしまうということにあります。xDAI ChainがGnosisのブランドを活用することで、OpenSeaやZapperを呼び込み、より永続的なチェーンになることが期待されています。
また、xDAI Chain当時のコンセンサスアルゴリズムとしてPOSDAOが採用されていました。POSDAOは、バリデータとして立候補したノードにSTAKEをステーキングし、STAKEのステーキング量に応じてバリデータになる確率が高くなる仕組みでした。
Gnosis Chainへの移行では、コンセンサスアルゴリズムがPOSDAOからGnosis Beacon ChainのPoSに変更されました。これはEthereum 2.0のような純粋なPoSで、Ethereum 2.0のバリデータ要件が32 ETHと巨額なのに対して、Gosis Beacon Chainのバリデータ要件は1 GNOと低くなっています。それも相まって、現在のGnosis Beacon Chainのアクティブバリデータは19,687と高い分散性を確保しています(2022年1月5日時点)。
参考情報:
Gnosis Chainに資産を移動する方法
Gnosis Chainにする主な方法は3つあります。リンクをクリックすると、それぞれの方法を解説したページにアクセスすることができます。
- EthereumメインネットからDAIをブリッジする方法
- クロスチェーンブリッジを利用し、PolygonやBinance Smart Chainなどから資産をブリッジする方法
- 日本円で[JPYC on xDAI]を購入する方法
Gnosis Chainに関する情報