技術コミュニティが強いブロックチェーンプロジェクトとして知られるCardano(カルダノ)は、その役割により3つの組織に分かれ運営されています。TOKEN ECONOMSITでは、2020年12月にCardanoの商業化部門であるEMURGO(エマーゴ)の代表、児玉健氏にインタビューを行いました。このインタビューでは、現在のCardanoプロジェクトの状況や、これからEMURGOがどこに目指すかを知ることができます。
第2部は、直近1年のCardanoブロックチェーンの状況や、それに際してEMURGOがどのように向き合ってきたのかをご紹介します。第1部がまだの方は、先にそちらをご覧ください。
▼第1部はこちら
EMURGO Founder & CEO 児玉健氏 第2部
Cardanoブロックチェーンの状況
加藤:Cardanoは動きが多すぎて、逆に状況が良くわからないというところがあります。現在のCardanoブロックチェーンがどうなっているのかを教えていただけますか?また、直近の動き、これからの動きも教えてください。
児玉:Githubの中で開発が1番アグレッシブと言われているのが、Cardanoになります。Cardanoは、ものすごく多くの試行錯誤を繰り返しながら開発が進められています。
Cardanoはすでに世界的にトップ10に入るブロックチェーンプロジェクトであり、第1世代と第2世代のブロックチェーンを改良した第3世代のブロックチェーンとして設計されています。アーキテクチャは、大規模な組織の利用に耐えられるようにスケーラブルになっており、そのガバナンス機能により何世代にもわたって持続可能であり、他の技術システムとの相互運用に長けています。
また、研究主導型のアプローチが特徴で、IOHKは暗号とコンピュータサイエンスの分野から世界クラスの専門家を集めてCardanoの研究開発を進めています。今のところCardanoの開発はとても順調に進んでおり、ブロックチェーン界隈からの関心が高まっている状況です。
今年の初めには、Shelleyというバージョンがリリースされました。これによって、ブロックチェーンの完全な分散化へと移行することに成功しました。Cardano ADAのユーザーは、弊社で作ったYoroi Walletを通じてステーキングに参加し、ADAのステーク報酬を受け取ることができるようになっています。
また、12月はトレジャリーシステムのリリースに成功しました。これは、ADA保有者が「こんなプロジェクトをしたい」という提案をした人に投票することができるというものです。実は、ADAのステーキングは面白くて、マイニングのように新規のコインが発行されます。コインはステーキングを実施した人とは別に、トレジャリーシステムに一定数が溜まっていきます。この溜まったコインを使うことができるのは、投票してコミュニティから支持された人のみになります。これが持続可能性の問題の解決を担っています。
加藤:なるほど、それは面白いですね!
児玉:なので、ADAを持っている人は、いつでもトレジャリーシステムを通じて投票したり、自分自身がCardanoのエコシステムに提案したりすることができるようになります。
今後Cardanoは、Goguenというバージョンにアップデートされていく予定です。そこでは、スマートコントラクト機能やCardano上でのトークンの発行機能が導入されます。
Goguenがリリースされると、企業はCardanoのスマートコントラクト機能でサービスを提供したり、Cardano上で新たにトークンが発行できるようになります。この段階になると、様々なブロックチェーンがある中で、Cardanoが選択される機会が増えてくると思っています。
加藤:スマートコントラクトがないとブロックチェーンを本格的に使うのが難しいでしょうから、Goguenがリリースされていない今までは、Cardanoの商業化を目指すERMUGOとしては相当苦しんだのだとお察しします。
児玉:そうですね、相当苦しみました。間違いないですね!
加藤:率直に、EMURGOから見た場合のGoguenの期待値はどれくらいですか?
児玉:やはり期待値は大きいです。
私たちからIOHKにやってほしいこととしては、やはり誰でも簡単にスマートコントラクトを使えたり、トークンを発行できたりといった、開発者に優しい基盤を作っていただきたいということがあります。
CardanoはHaskell(ハスケル)というプログラム言語で構築されているので、そもそも難しいです。ですので、Haskellでスマートコントラクトを動かすというのは、スマートコントラクトを使いたい人にとっては大変なことです。そこを上手くJavaなどのわかりやすい言語が扱える環境を整備するというのが私たちからの希望です。
加藤:スマートコントラクトができると、Cardanoエコシステムでどのようなものが生まれていくのでしょうか?
児玉:来年はやることが結構あります。まだ公表できないので、それは楽しみにしていてください!
また、これは強く主張しておきたいのですが、EMURGOが非Cardanoの取り組みを行っていることについてです。この理由は、Cardanoにスマートコントラクトがない中でのEMURGOとしての戦略になります。これは、コミュニティの人たちからもよく意見をいただくのですが、EMURGOのWebページにもブログとして投稿しました。是非ご覧ください。
現在、EMURGOがやっている取り組みはいくつかあります。私たちが開発したYoroi Walletは、利用者数が5万人になっています。今後はADA以外のトークンにも対応する予定です。また、先程も話したOracle Coreや開発者向けのツールを継続的に開発しています。
そして、引き続きBrandmarkやEmurgo Indonesia、EMURGO Enterpriseでトレーサビリティの利用を進めています。
また、Travelor.comで旅行代の支払いをADAでできるようにしたり、ErgoというプロジェクトとDeFiソリューションの共同研究など、Cardanoの流動性を高める様々な活動をしています。
それ以外にも、教育であったり、あるいはChamber of Digital Commerceという団体やHyperledgerなど、ブロックチェーン業界とのパートナーシップ強化も行っています。
加藤:たくさんありすぎますね。
児玉:なぜEMURGOがCardano以外の活動を含め、色々な取り組みをしているのかということなのですが、EMURGOの戦略として、Cardanoの中でなく外のエコシステムと実際に携わっていくことで、Cardanoが実際にできたときのシナジーであったり、相互互換性をどのように確保していくのかを追求する目的があります。
また、実際にCardanoの開発が完了して、その後にビジネスを開発するとなると、やはり遅れをとってしまいます。そうならないように、他のブロックチェーンを使いながら、ブロックチェーンをベースとしたビジネスや経験を培っていく作業が必要になります。
さらに、業界で異なるタイプのビジネスニーズを特定する必要があります。これらのニーズを満たすために、IOHKに対してクライアントがこういうことを求めている、開発してほしいということをフィードバックしています。
他には、実際にEthereumなどのブロックチェーンを使っているけれども、Cardanoが準備できたときに載せ替えるということも検討できます。非Cardanoをやるということは様々なメリットがあります。
やはり、我々はCardanoの団体なので、Cardanoが準備完了となったときに、我々が作ったビジネスを一気にCardanoに持ってくるということが、EMURGOが目指しているところになります。現在は、アクセラレーターとして10社投資していますが、Cardanoができたときに、それらをCardanoエコシステムに全部持ってくる取り組みができたらと思っています。
加藤:なるほど。非Cardano分野の取り組みも、Cardanoシステムのことを多角的に考えた上での戦略から来ているわけですね。
Cardanoブロックチェーンのコミュニティの強さ
加藤:私は、Cardanoはコミュニティがとても強いなと相変わらず思っていて、例えば日本だけを見ても、Yutaさんという方が積極的にCardanoグループを立ち上げたりオンラインミートアップを開いたりしています。また、CardanoはShelleyメインネットをローンチし、今まで1400以上のステーキングプールが立ち上がりました(Cardano Stake Pools参照)。
未だにスマートコントラクトが使えず、ブロックチェーンでできることが極めて限られているにも関わらず、Cardanoのコミュニティの強さを見せつけられたのが2020年の後半です。児玉さんの視点から見て、これはなぜだと思いますか?
児玉:簡潔に申し上げるとやはり投資家の方々の期待感が非常に強いということだと思います。Cardanoは、本当に大きなことを成し遂げようとしているプロジェクトです。それくらいのインパクトがあるプロジェクトというのは、日本にも世界にもありません。これが決して夢物語ではなくて、実現可能性が高いと私自身も思っています。
Cardanoの3社の従業員数のトータルは300名を超えていて、世界中の専門家が多く所属しています。さらに、社員以外のアクティブユーザーも数万人いますし、組織内も外も関係なく、エコシステムの中で皆が一丸となってCardanoのエコスステムを構築していこうという連携が取れていると思っています。
このような協力関係ができて、初めて分散型プロジェクトの強みが活きてくると思っています。これが現在のCardanoの強さなのではないのかなと思います。
加藤:せっかくなので、この場でコミュニティについて何か伝えておきたいことはありますか?
児玉:Cardanoは私たちのものではなくて、皆のものであると思っています。創設会社だけが頑張るのではなくて、皆さんのご協力があってこそ現状に至っていると思っています。
チャールズがよく情報発信やAMAをやっていますが、それを常にキャッチアップして分かりやすくコミュニティに届けてくれる方がいらっしゃり、私自身も大変助かっています。
ですので、今後も引き続き皆さんと連携して一緒にビジネスをさせていただきたいですし、何かあれば意見を言っていただきたいですし、ひとつのCardanoチームとしてCardanoのエコシステムを一緒に構築できたらとても嬉しいことです!
EMURGOの1年を振り返る
加藤:今年のCardanoエコシステムは、前年以上に色々あった1年でした。EMURGOはCardanoとどのように関わった1年でしたか?
児玉:これまで話してきたことと被るのですが、2020年にやってきたことは、Yoroi WalletやOracle CoreなどのCardanoの周辺環境の開発を実施してきました。
ビジネスの面では、Brandmarkという共同プロジェクトや、EMURGO IndonesiaやEnterpriseの事業を通じ、EMURGOトレーサビリティのリリースを行い、それを複数社に導入しました。具体的な会社名をお伝えすると、ブルーコリントジコーヒー、Ahava、エンジェルベーカリー、HydroShop、CultivAidなどの企業と協力してきました。
あとは、ADAのペイメントの利用を促進したり、インドでの教育をしました。しかし、COVID-19の影響で大学が閉まってしまったので、教育テック企業として方向転換をしました。EMURGO Indiaではオンライン教育を提供するのですが、来年からAI教育も取り入れていきます。
加藤:随分と攻めますね。
児玉:教育プログラムは、ブロックチェーンだけではなく、周辺ITの分野、例えばIoTなど、どんどん増やしていきます。幅広い分野からのエンジニアを集めて、その人たちにブロックチェーンを教えるようにします。
狭い視野ではなくより広い視野で見たときに、やはり技術の連携があります。連携させるとブロックチェーン業界の広がり方が加速すると考え、幅広い選択ができるようにしました。
加藤:教育分野がCOVID-19の影響を受けたのですね。
児玉:はい、かなり影響がありました。そもそも大学が開いていないのです。インドでは15の大学と提携してますし、インドネシアでは10の大学と提携しています。今までは大学の中で寄付講座をしていくというアプローチをしていましたが、オンラインに切り替えざるを得ませんでした。しかし、すべての大学がいきなりオンラインに対応できるかというと、なかなかそうもいかず、思っていたよりも生徒が集まりませんでした。
一方で、私自身もCOVID-19の影響を受けました。その前は、月に最低3カ国は飛んでいましたが、シンガポールにとどまる事が多くなり、このタイミングで深く考えることができました。色々な情報収集もできましたし、会社のコストの最適化もできました。それらは結果的に良かったと思っています。
また、COVID-19で業界全体がDXに傾きました。DXの一環としてブロックチェーンが導入されるというケースもあると思っているので、そういった意味でCOVID-19は業界の成長が加速するきっかけだと思っています。
加藤:私が以前に別のブロックチェーンプロジェクトを取材したときも、DXによりブロックチェーン導入が加速するだろうと話していました。ブロックチェーン業界では、全体的にCOVID-19を追い風と捉えているようですね。
次回予告
第2部では、CardanoとEMURGOの直近の状況について伺っていきました。
続く第3部では、EMURGOグループとして今まで重要と捉えていた日本市場の拠点を閉めた理由や、これからどのように活動していくかを訊いていきます。
▼第3部はこちら
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Cardanoについて
当メディアによる過去のインタビュー記事
【インタビュー】EMURGO 広報 – ミッキー氏
- Part.1:EMURGOはCardanoとどのように関わっているのか?
- Part.2:Cardanoとはどのようなブロックチェーンなのか?
- Part.3:Cardanoの開発は遅すぎないのか?
- Part.4:Cardanoビジネス拡大の戦略
- Part.5:絆が強いCardanoコミュニティ
【インタビュー】EMURGO 日本法人代表 – 吉田洋介氏