技術コミュニティが強いブロックチェーンプロジェクトとして知られるCardano(カルダノ)は、その役割により3つの組織に分かれ運営されています。TOKEN ECONOMSITでは、2020年12月にCardanoの商業化部門であるEMURGO(エマーゴ)の代表、児玉健氏にインタビューを行いました。このインタビューでは、現在のCardanoプロジェクトの状況や、これからEMURGOがどこに目指すかを知ることができます。
第3部は、EMURGOグループとして今まで重要と捉えていた日本市場の拠点を閉めた理由や、これからどのように活動していくかをご紹介します。第2部がまだの方は、先にそちらをご覧ください。
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EMURGO Founder & CEO 児玉健氏 第3部
EMURGOにとっての日本市場の位置づけ
加藤:EMURGOは、今年の4月に東京オフィスを閉鎖しました。当初、日本市場はEMURGOにとって大事な拠点だったはずですが、閉鎖はどのような経緯だったのでしょうか?これから日本市場をどのように位置づけていくのでしょうか?
児玉:私たちは、日本市場は世界でも特殊な法整備がされているという認識を持っています。今の段階だと、ブロックチェーンをビジネスとして成功していく場合、技術への知識や理解が深くないといけないと思っています。
その中で、日本市場はなかなか英語ができる人がいなかったり、エンジニアの絶対数が少ないので、採用が非常に難しいなという印象があります。やはり速い情報を収集するためには、英語が必須になると思っていて、日本の動向だけではなく、世界各国の動向を常にキャッチアップする必要があると感じています。その中で、日本でのビジネスを構築していくのは、非常に難しいのではないかという結論に達しました。
加藤:現実的な捉え方だと思います。
児玉:Cardanoプロジェクトはグローバルプロジェクトです。そして、ブロックチェーン業界では本社をシンガポールに構えている企業がかなり多いです。私は経営者として活動する中で、業界関係者との関係構築や横のつながりを増やしていく上において、シンガポールのほうが広がりを作りやすいと感じています。シンガポールには世界のトップクラスのプロジェクトが集まってきているので、地理的な利点が非常に大きいと思っています。
また、EMURGOの開発チームのCTOはチリ人でニューヨークに住んでいますし、グローバルチームを作ってしまったので、これを日本向けに展開していくのはなかなか難しいという面もあります。それであれば、海外に視点を移していく方が成長速度が速いという結論に達し、思い切ってシンガポールに本社を移した経緯があります。
ただ、日本という市場は非常に思い入れがありますし、私も日本人なので、日本の周辺環境が広がってきたときに、また日本のビジネス環境を模索していきたいと思っています。
加藤:1年前に日本法人の吉田さんにインタビューしたときと比べて、非常に大きな方針転換をしたと感じます。
これからのEMURGO
加藤:2021年は、EMURGOではどのような活動を中心に行っていきますか?また、2021年はスマートコントラクトが搭載されたGoguenがリリースされる年になると思いますが、これによってEMURGOとCardanoブロックチェーン関わり方はどのように変わっていきますか?
児玉:Goguenが登場すると、企業はCardanoのスマートコントラクト機能を利用できるようになり、Cardanoを利用しているユーザーだけでなく、Cardanoに構築・移行しているユーザーにも様々なサービスやメリットをもたらすことになります。
2021年、EMURGOは既存事業の拡大、より多くの企業のお客様へのカスタマイズされたソリューションの提供、金融分野(STOやDeFi)への本格参入、世界各地で開催されるイベントでの製品・サービスのプロモーションに注力していきます。
年を追うごとに、投資、ビジネス目的、教育、キャリアの機会など、様々な理由でブロックチェーン技術の利点についての知識を増やす人や企業が増えています。これは、EMURGO、Cardano、そしてブロックチェーン業界全体の継続的な成長のための大きな基盤と勢いとなっています。
児玉氏にとってのブロックチェーン業界の関心事
加藤:ここから児玉さんの個人の関心についてお聞かせください。児玉さんは現在ブロックチェーンのどのようなところに関心がありますか?
児玉:私は、主にサプライチェーンの領域とFintechの領域に強い関心があります。
アメリカやヨーロッパでは、二酸化炭素の排出量を下げられるよう、国家レベルで企業に要請が出ています。すべての取引やワークフローをブロックチェーン上に載せることによって、どれくらいの二酸化炭素が排出されているかなど計測できるようになり、二酸化炭素の排出量の削減に貢献できると考えています。このような社会全体の課題を解決できるので、EMURGOではそういうところにも取り組んでいます。これが実現できたらなと考えています。
また、Fintechの分野ではDeFiやSTOについて非常に強い関心があります。これらの成長は、これから加速していくと考えています。DeFiでは、今年多くの資金が流入し、イーサリアムの代表的なユースケースとなったと思っています。先ほどお伝えしたポートフォリオの1つのAPI3は、DeFi領域で多くの恩恵をもたらしてくれると思いますし、とてもエキサイティングなプロジェクトだと思います。EMURGOも、Ergoと共同でステーブルコインを研究しており、Cardanoの準備ができたタイミングで、Cardano上でステーブルコインを発行できるようにします。
また、シンガポールでは、DBS銀行やシンガポール取引所がセキュリティトークンの分野に本格的に参入していくことが発表されました。STOの成功のカギはセカンダリマーケットだと思っているので、そこができると発展が加速すると思っています。ですので、2021年は、EMURGOもSTOの分野に挑戦していこうと、今動いています。
加藤:この質問はCardanoに関係なく質問したつもりですが、こうして振り返ってみると最終的にEMURGOのビジネスに直結しているということですね。自分のビジネスで、自分の関心があることを実行できるというのは素晴らしいことです。
ブロックチェーンの社会実装の難しさ
加藤:ブロックチェーンの社会実装は裏では進みつつあるのですが、現実的には、体感できるほどにブロックチェーンが普及していません。児玉さんは、その要因は何だと考えられますか?実際にブロックチェーンのビジネス開発をしている立場として教えてください。
児玉:色々あると思いますが、主に3つお話したいと思います。
1つ目が、技術と法律の両方を理解することの難しさになります。
ブロックチェーンをビジネスに取り入れるには、複雑な法律を整理し、ビジネスで使えるレベルまで落とし込む必要があります。これには膨大な工数が必要となります。専門家とブロックチェーン技術者が一緒になってビジネスを作り込まなければならないため、実現するためのハードルが高いように感じます。
ただ、EMURGOではサプライチェーンやFintechなど業界に成熟した人と連携して、ブロックチェーンを実装したビジネスを構築しています。ですので、両方が今のフェーズで必要だと思っています。この分野は他社事例も少ないですし、きっちりと法律やワークフローをイチから分析することが難しいですね。これらが参入の障壁になっていると感じます。
2つ目として、一般の技術への理解度が低いと考えています。
ブロックチェーンを導入しようと考える企業、あるいはユーザー、エンジニアなど、関係するステークホルダーのブロックチェーンへの理解がまだまだ乏しいと思っています。
多くの企業はブロックチェーンで何かやりたいという関心はあるものの、実際にはどうやって良いのか分からない、何をやって良いのか分からない、どのような利点があるか分からないという形で、私たち自身も実際に契約に至らないことが相当数あります。
そういったこともあり、業界全体の理解を高めるため、私たちはEMURGO Academyを通じて一人でも多くの人たちにブロックチェーンの利点や、どうやってビジネスに落とし込んでいくのかということを教育することにとって、もっと発展していけるのではないかなと思っています。
3つ目の要因は、企業に提示できる定量的な数値やデータが不足していることだと思っています。
企業は実際にブロックチェーンを導入する際に、やはりお金がかかります。それにあたり、基本的に彼らはどれだけの投資効果があるのかを計測します。しかし、現状は他社事例があまりないため、具体的にこのソリューションを導入した場合に、コストに対してどれだけコスト削減できるのか、あるいはこれを入れたことによって売り上げがどれだけ伸びるのかというデータがほとんどありません。そうなってしまうと、やはり大きなお金をかけてまで導入しようと踏み切る会社が少なくなります。
そのため、EMURGOではトレーサビリティのソリューションを通じて、色々な企業にできるだけ安く導入しています。これをやる私たちの主な目的は、データを取得することです。ブロックチェーンを使うことで、実際にどのような効果があったのか、定量的な数値を他社に示すことで、説得感があるプレゼンができて、導入を加速化できると思っています。
加藤:となると、定量的なデータ得る前にソリューション導入を決定した初期の顧客がいると思うのですが、彼らにはどのようなことを伝えてブロックチェーンの導入に至ったのでしょうか?
児玉:これはインドネシアの例ですが、導入をする企業は大きく分けて2つあります。完全にアナログで紙でやり取りしている企業。そして、何かしらの既存のシステムがあってそれをブロックチェーンに変えていこうという企業です。
インドネシアでは、完全に紙でやりとりしている組織が多いです。特に、コーヒーの産業は紙でずさんな管理が行われていました。豆をトン単位で仕入れる商社は、どのような豆なのか当然データがあったほうが購入しやすくなります。そこで、ブロックチェーンで透明性を上げることに伴い、販売価格を少しあげました。
加藤:付加価値をつけたのですね。
児玉:はい、付加価値をつけました。これにより、コーヒーを生産する人たちの売上が少し上がることにつながります。このようにすることで、コストを掛けて導入しても良いのではないかと思ってもらうに至りました。
最後にひとこと
加藤:最後に、読者の皆さんに向けてメッセージや今後の抱負をお願いします。
児玉:ブロックチェーンという産業は、2027年には成熟を迎えほとんどのすべての産業に関連するだろうと、リサーチ会社のガードナーが述べています。商業価値は2022年には100億ドル、2026年には3600億ドルに拡大、2030年には3兆1000億ドルになると言われています。
ブロックチェーンの業界全体が爆発的に成長していく中で、業界をけん引していくのがどのプロジェクトなのかとなったときに、私は、その1つはCardanoであると確信しています。
ですので、大きくなるこの産業に、より多くの人にCardanoのエコシステムに入っていただき、今後も皆さんの意見を参考にして、より深く連携しながら、より多くのサービスを皆さんに提供していきたいと考えております。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
加藤:この業界の変化は恐ろしほど速いので、2027年はとても遠い未来に感じますね。ありがとうございました。
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当メディアによる過去のインタビュー記事
【インタビュー】EMURGO 広報 – ミッキー氏
- Part.1:EMURGOはCardanoとどのように関わっているのか?
- Part.2:Cardanoとはどのようなブロックチェーンなのか?
- Part.3:Cardanoの開発は遅すぎないのか?
- Part.4:Cardanoビジネス拡大の戦略
- Part.5:絆が強いCardanoコミュニティ
【インタビュー】EMURGO 日本法人代表 – 吉田洋介氏