数多くのレイヤー1ブロックチェーンが登場しつつ、最近は特定の用途に特化したチェーンが増加傾向にあります。その中でも、SeiはDEXアプリケーションに特化しているチェーンでありながらも、より柔軟な取引環境を実現することが可能になっています。
Seiの概要
Seiは、分散型取引所(以下、DEX)をはじめとする資産取引に特化したレイヤー1のパブリックブロックチェーンです。
取引所は、いまや暗号資産で最も広く利用されているアプリケーションなのは疑いようもないことでしょう。しかし、取引所は依然として中央集権取引所(以下、CEX)での取引が主流になっています。一方で、DEXも発展しつつあるものの、CEXほどの発展は遂げていません。Seiのプロジェクトは、このような原因が適切なインフラの欠如であるとし、あらゆる用途に向けた汎用型ブロックチェーンでは、DEXが最高のユーザー体験をもたらす環境を提供することはできないと主張しています。
Seiは、DEXアプリケーションのための「セクター特化型チェーン」として設計されています。セクター特化型チェーンは、EthereumやSolanaのような相互運用性が高い汎用型チェーン、dYdXやOsmosisのようなカスタマイズ性が高いアプリ特化型チェーンの中間的な位置づけとなります。このポジショニングにより、Sei Networkでは高いコンポーザビリティとDEX向けのカスタマイズ性を確保しつつ、開発者はDEXアプリケーション用にカスタムビルドした環境を構築できるようになります。
Sei Networkは、CEXとDEXとの間のパフォーマンスギャップを埋めることを目標としています。独自のTwin-Turbo Consensus(ツインターボ・コンセンサス)と複数の並列化手法を実装することで、レイテンシーを短く抑えてパフォーマンスを向上させます。加えて、ネイティブのマッチングエンジンを搭載し、ブロックごとに一括マッチングさせることによってフロントランニングを防止します。
プロジェクトは2022年8月にMulticoin Capital主導で業界の著名投資家らから5Mドルの資金調達を、2023年4月には、Jump CryptoやDistributed Globalらが参加する形で30Mドルの資金調達を行いました。また、メインネットを2023年8月15日にローンチし、100以上のプロジェクトが既にオンボードしています。加えて、SeiはSei v2を発表し、並列処理が可能なEVMや、WasmとEVM間の相互運用性の確保を発表しました。v2の内容は2024年第2四半期にメインネットに反映される予定となっています。
Seiの特徴
資産取引に特化
Sei Networkでは、プロトコルレベルでオーダーブックが組み込まれ、コンセンサスアルゴリズムなどの諸々の仕組みが資産取引に特化しています。公称スペックでは、トランザクションのファイナリティが380ミリ秒、1秒あたりの注文数が20,000件となっています。また、外部プロジェクトはSei Networkに組み込まれた注文マッチングエンジンを利用してユーザーに独自の取引環境を提供することができます。
Sei Networkは、Cosmos SDKとTendermint Coreをフォークし、資産取引に最適化することによって、汎用ブロックチェーンのDEXより遥かに快適な取引体験を提供します。その中核を担うのが、独自のコンセンサスであるTwin-Turbo Consensus(ツインターボ・コンセンサス)とDeFi特化の並列化処理です。Twin-Turbo Consensusでは、ブロックの伝搬方法を最適化した Intelligent Block Propagation と、ブロック提案を楽観的に処理する Optimistic Block Processing により、即時ファイナリティを実現します。
また、DeFi特有の並列化処理では、DAGを利用することでトランザクション間の依存関係を明確化して並列処理を実行できるようにます。また、本来のCosmos SDKでは逐次実行されるDeliverTxとEndBlockを並列化させ、さらにマーケットベースで並列処理できるようにすることにより、スループットと注文処理を大幅に向上させます。
広範囲なチェーンの資産に対応
Sei Networkそのものは独自チェーンであるものの、複数のクロスチェーンソリューションを駆使する事により、セキュリティリスクの高いブリッジを使わずに広範囲なチェーンの資産に対応することができるようになります。クロスチェーンソリューションは、Axelar(解説記事)とCosmos IBCに対応しており、それぞれを経由して様々な資産をSei上で扱うことができるようになります。2023年4月時点で、Seiが採用しているクロスチェーンソリューションは、以下のチェーンへの相互接続に対応しています。
- Axelar:Ethereum, BNB Chain, Avalanche, Polygonなど、EVM互換の50+チェーン
- Cosmos IBC:Cosmos Hub, Osmosis, Strideなど、IBCが有効な86チェーン
フロントランニング防止
一般的なDEXでは、フロントランニングが取引の公平性を損ねるという点が問題になっています。フロントランニングは、mempool(未処理のトランザクションのデータプール)に残っている取引に対して、より高いガス代でトランザクションを通すことにより生じます。
フロントランニングが起きる原因の1つが、memopoolにある注文を1つずつ実行するという点になります。そこで、Sei Networkではトランザクションの実行を1つずつではなく、まとめて行うことにしました。それがFrequent Batch Auctioning(フリークエント・バッチ・オークショニング)、直訳すると「頻繁な一括オークション」と呼ばれる仕組みです。この仕組みは、ブロックの終わりにすべての注文を集約し、同じ価格ですべての成行注文を執行することで、フロントランニングを防ぐというものになります。
並列処理が可能なEVM(Sei v2)
Ethereum仮想マシン(Etherum Virtual Machine: EVM)は、その仕組みから高速化のための並列処理が難しく、既存の高速実行できるソリューションは非常に中央集権的なものでした。Sei v2では並列化されたEVMである Parallelized EVM を提供します。これは、すべてのトランザクションを楽観的に並列して実行するというもので、同じステートにアクセスした競合的なトランザクションは再帰的に再び実行されます。並列実行により、ピークの処理容量は約28,300TPSが見込まれています。
EVMとWasmの相互運用(Sei v2)
Seiは、Wasmでスマートコントラクトを実行するチェーンです。Wasmのスマートコントラクトは、汎用的なプログラム言語で記述することができるメリットがある一方で、現在主流であるEVM互換チェーンの開発者をオンボードすることができません。また、EVMとWasmは一般的に相互運用性がないため、仮に同じチェーンにEVMとWasmの両方が載っていたとしても、それぞれに向けたアプリケーションで連携させることはできません。
Sei v2では、既存のWasmに加えてEVMに対応する予定になっており、さらにWasmとEVMが相互に通信できるようにすることで、それぞれの仮想マシンで実行可能な異なるアプリケーションを連携可能にします。
SEIトークン
Seiでは、ネイティブトークンとして$SEIを発行しています。
SEIトークンの用途
$SEIは以下の用途で使用します。
- ネットワーク手数料
- ステーキング(委任、バリデーターの運用)
- ガバナンス
- ネイティブ担保(Sei上のDAppsの資産や流動性として)
- 手数料マーケット(バリデーターへのチップ追加によるトランザクションの優先権)
- 取引手数料(Sei上に構築された取引所における手数料)
SEIトークンの配布
$SEIは総供給量が100億トークンと、供給上限が固定されています。以下の割合に応じて、$SEIが配布されていきます。
- 48%:エコシステム準備金
- 20%:チーム
- 20%:プライベートセールの投資家
- 9%:Sei財団
- 3%:ローンチプール
Seiでは、$SEIのインフレはなく、ステーキング報酬はエコシステム準備金から排出されていきます。また、同じくエコシステム準備金から、Seiのコントリビューターやビルダー、ネットワーク参加者に助成金やインセンティブを通じて配布されます。また、うち3%がエアドロップとして確保さてています。
$SEIのトークノミクスの詳しくは、Sei Japanのブログ「将来を見据えたSEIのトークノミクス」より確認することができます。