様々なEthereum仮想マシン(EVM)の互換チェーンが登場し、今やその数は優に50を超えています。Orbsは、EVMを利用するという性格を持ちつつも、それらのチェーンとは違う角度でアプローチをするLayer3としての立ち位置を担います。
Orbsの概要
Orbs(オーブス)は、イスラエル発のパブリックチェーンで、コアチームによってゼロから設計・実装されています。暗号資産は $ORBS になります。
Orbsは、アプリケーション開発者のためのサーバレスクラウドを目指して作られました。当初、Ethereumを補助するチェーンとして開発され、メインネットは2019年3月29日にローンチしました。プロジェクト発足時から、エンタープライズのブロックチェーン活用のために取り組んでいたものの、エンタープライズへのブロックチェーン普及が想定から大幅に遅くなると見込まれることがわかったため、まずはDeFiを中心に開拓する方針転換を行いました。そして、2021年1月、OrbsはBinanceと共同で新しいプロジェクトやDeFiプロトコルを支援するDeFi.orgアクセラレータを立ち上げ、DeFiエコシステムの拡大を行っています。
Orbsはエンタープライズの利用を前提として開発されているため、ブロックチェーンがわかる人のみが利用できるチェーンではなく、より一般に浸透できるようにするための工夫が施されています。ブロックチェーンを利用したアプリケーション開発では、SolidityではなくGoやJavaScriptのような一般的な開発言語を用いることができるようになっています。また、原則的にアプリケーション開発者が月次でGASを支払うという、従来のクラウドサービスと同様の料金モデルによって、GASの支払額を予測可能にしています。さらに、アプリケーションごとに仮想チェーンが作成される設計により、アプリケーションごとの公開・非公開が選択できるようになる他、アプリケーション専用のリソースが確保されるためにチェーン全体混雑に起因するパフォーマンス低下がなくなります。これにより、サービスレベル合意(SLA)が求められるアプリケーションをパブリックチェーン上に展開することが可能になります。
2022年3月、Orbsはメインネット開始3周年を機にチェーンをバージョン3.0とし、その立ち位置をアップデートしました。Layer1のEtheruemをセキュリティ層として、Layer2のPolygonやBNB Smart Chainなどをスケーラビリティ層として位置づけ、OrbsはLayer3を担います。Layer3としてのOrbsでは、Orbs上で単体のアプリケーションを立ち上げられる他、Layer1やLayer2に展開されているサービスと協調動作しつつ、さらにEVM(Layer1/2)のみでは実現できなかった機能を付加することができるようになっています。また、Ethereumに加えて、Polygonからのマルチチェーンステーキングに対応しました。
Orbsは、バージョン3.0に至るまでの3年間で技術開発とエコシステムへの接続に力を入れてきました。これらのベースがあることで、Layer3として様々なアプリケーションがホストできるようになりました。
Orbsの特徴
SLAの保証が必要なユースケースに対応
Orbsでは、もともとエンタープライズ利用を意識して設計されており、サービスレベル合意(SLA)の保証が必要なユースケースに対応できるようになっています。その根底にあるのが仮想チェーンと呼ばれる技術です。これは、一種のシャーディングのようなものであり、Orbsではアプリケーションごとにリソース(計算、ストレージ、コンセンサス)が確保された仮想チェーンが生成されます。
仮想チェーンは、それぞれが並列実行されるようになっているため、あるアプリケーションによるトランザクションの詰まりが他のアプリケーションに波及することがなくなります。仮想チェーンは、無限に増やすことができるようになっているため、Orbsのチェーン全体は無限に拡張可能になっています。また、オプションでEthereumのように様々なアプリケーションでチェーンを共有することもできます。
非公開にしたいユースケースを実現できる
Orbsでは、アプリケーションごとに仮想チェーンが生成され、ユーザーのニーズに応じて仮想チェーンの情報公開範囲を調整することで、トランザクション結果を公開するか否かを調整することができます。トランザクションを非公開にすると、パブリックチェーン上でプライベートチェーンと同等のことが実現できるようになります。
トランザクションを非公開にすると、アプリケーションからのトランザクションはノードに送信する前に暗号化され、ノードに到達します。その後、ノードによるコンセンサス後に実行のため復号化されます。ノードのメモリプール上では、トランザクションの内容が暗号化されることから、フロントランニングや外部からの検閲を防ぐことができます。
GASの設定が柔軟にできる
Orbsでは、エンタープライズ利用ができるチェーンを設計してきたことから、GASの設定が柔軟にできるようになっています。
従来のパブリックチェーンでは、アプリケーションのユーザーがGASを負担する必要があります。そのためには、ユーザーはGAS用トークンを保有しておく必要があり、これがパブリックチェーンの使い勝手を悪化させる要因になっています。この要因は、エンタープライズ利用においてさらに追い打ちをかけることになります。企業がパブリックチェーンを利用する場合、会計の問題、カストディ(暗号資産の保管)の問題、それを扱うことができる担当者を確保しなければいけない問題のすべてをクリアにしておく必要があるためです。
Orbsチェーンは、GAS用トークンに起因する問題を極力排除できるように設計されています。GASの支払いは、ユーザーではなく、原則的にアプリケーション開発者が行います。つまり、ユーザーはGAS用トークンを保有せずにアプリケーションを利用することができるようになります。また、従来のパブリックチェーンの手数料モデルのように、ユーザーに手数料を請求するモデルをとることもできます。
GoやJavaScriptでEVM上のサービスを活用することができる
Orbsでは、EVM用スマートコントラクト専用の言語 Solidityではなく、GoやJavaScriptといった一般的なプログラミング言語でアプリケーションの開発を行います。それらの言語では、Orbs単体でアプリケーションを実装できるのはもちろんのこと、Layer1 (Ethereum)やLayer2(PolygonやBNB Smart Chainなど)のステートを読み込むことにより、これらのチェーンと協調動作したアプリケーションを実装することができるようになります。
悪意のあるノードが共謀できなくなるコンセンサス方法を採用
ブロックチェーンのコンセンサスでは、取引を選択してブロックを生成するノードを選出し、その後ブロックを検証する作業を行います。前者の役割は、ブロックプロデューサーと呼ばれ、後者はバリデーターと呼ばれます。多くのブロックチェーンは、ブロックプロデューサーとバリデーターの役割を同じノードが担います。これは、ノードが共謀をした場合に、不正な結果がブロックに書き込まれる可能性をはらんでいます。
Orbsのコンセンサスアルゴリズム Helix(ヘリックス)では、ブロックプロデューサーとバリデーターが分離されています。ブロックプロデューサーは、Orbs上で稼働しているアプリケーションによって選択されます。また、バリデーターは、OrbsのProof of Stake(PoS)のインセンティブモデルによって決定されます。厳密には、Orbsではバリデーターのことをガーディアンと呼んでいます。このような仕組みにより、Orbsでは悪意のあるノードが共謀できなくなるコンセンサスを行うようになっています。
Orbs 3.0 によるチェーンの位置づけの変化
Layer3としてのOrbs
Orbsは、2022年3月にアーキテクチャをOrbs 3.0として刷新し、自身をLayer3の立場として位置づけました。各Layerは以下のような構成になっており、その多くがEVM互換チェーンになっています。
- Layer1:セキュリティ – Ethereum
- Layer2:スケーラビリティ – Polygon, BNB Smart Chain, Avalanche, Harmony, Fantom, Solana, The Open Network
- Layer3:価値の向上 – Orbs
このような設計により、Orbsでは既存のEVM経済圏を利用しつつ、それらに対してさらに付加価値を与えたアプリケーションを提供することができるようになります。
Orbsの主張によると、EVMによるDeFiは「できることが単純なことに限られる」としています。例えば、yearn.financeのようなイールドアグリゲーターは、プールに提供された資産をステーキングして報酬を獲得し、その報酬でさらに資産を購入してさらにステーキングを行います。これは、再投資を繰り返すだけの単純な運用戦略であり、その単純さはEVMの限られた機能に由来するものだとしています。Layer3を導入すると、APYに応じて複数のポジションを自動的に切り替えたり、最適なタイミングでローンを組んでレバレッジをかけるという運用戦略を加えることができるようになります。つまり、Layer3ではLayer1/2で実現不可能だった、より複雑で動的なアプローチが実現します。
Layer3の機能を示すために、Orbsチームは最初のプロダクトとしてOpen DeFi Notification Protocolを開発しました。これは、オンチェーンのイベントを分散型の仕組みでモバイル通知を行うための無料サービスになります(iOS / Google Play より入手可能)。
Open DeFi Notification Protocolでは、例えばレンディングサービスのAaveで担保資産の価格下落により担保が清算されるリスクが高まった場合に、モバイルに通知を送ることが可能になります。通知サービスを組み込むのは、各プロジェクトのコアチームである必要はなく、各DeFiサービスのコントリビューターであれば誰でもできるようになっています。
参考:Orbsハイブリッド・アーキテクチャーがDeFiのゲーム・チェンジャーになるには
Layer1/2の流動性を利用するユニークなアプローチ
Orbsでは、Layer3ではなくLayer1/2の流動性を利用するというユニークなアプローチをとっています。これは、Orbsチェーンで機能上トークンを直接扱うことはできず、あくまでもOrbsは柔軟なサービスを実現する役割を担うというものです。もし、トークンを扱う場合は、Layer1/2にあるものを直接利用することになります。
このような背景は、もともとOrbsがエンタープライズ向けのブロックチェーンとして始まったことに由来します。エンタープライズの多くは、スマートコントラクトが実行できることが重要でトークン発行を重要視していません。Orbsによると、過去に世界銀行やP&Gと行った実証実験においてトークンのニーズがありませんでした。そのため、まずはDeFi市場を中心に展開する方針に転換した現状では、アプリケーション機能そのものを高めるインフラとして注力しています。
また、ビジネス上の理由からも、OrbsはOrbsチェーンに流動性を配置しない決定をしています。一般的に、チェーンに大きな流動性を呼び込むためには、報酬プログラムを用意して、ユーザーに流動性を移行させるようにする必要があります。これらは、プロジェクトトークンのインフレーションを加速させるため、トークン価値を棄損させることにつながります。このような背景から、OrbsではLayer3として柔軟なサービスを提供する役割に徹することになりました。
ORBSトークン
マルチチェーンで展開されるORBSトークン
Orbsでは、$ORBSが100億枚発行され、以下の内訳にもとづいて配布されています。
- 55%:長期用の資金(ステーキング報酬)
- 20%:プライベートセール
- 20%:チームと資金調達パートナー
- 5%:アドバイザー
$ORBS は、Orbsチェーンを利用するためのGASを支払うために利用されます。ユーザー(原則的にアプリケーション開発者)は、Orbsのバリデーター(ガーディアン)に対して、チェーン上で消費されるリソース(計算、ストレージ、コンセンサス)のための料金を支払います。また、$ORBS をProof of Stake(PoS)でバリデーターにステーキングすることにより、チェーンのセキュリティ強化やガバナンス参加への見返りとして報酬を得ることができるようになっています。
前述の理由から、Orbsチェーンで直接トークンが流通しないようになっているため、$ORBSそのものは以下のチェーンで流通しています(2022年4月時点)。
- Ethereum(コントラクト情報)
- Polygon(コントラクト情報)
- BNB Smart Chain(コントラクト情報)
- Avalanche C-Chain(コントラクト情報)
- Harmony(コントラクト情報)
- Fantom(コントラクト情報)
- Solana(コントラクト情報)
マルチチェーンステーキング(PoS)
Orbsチェーンは、Proof of Stake(PoS)を採用しているため、$ORBSの保有者は、バリデーターを構築するかバリデーターに委任をすることでOrbsチェーンのステーキングに参加することができます。Orbsチェーンでは、バリデータを「ガーディアン」、委任者のことを「デリゲーター」と呼びます。
Orbsのステーキングでは、EthereumかPolygon上にある$ORBSをステーキングします。外部ネットワークからステーキングする仕組みについて、Orbsは、ガーディアンの投票処理を信頼性が高い外部のネットワーク(Etheruem, Polygon)に任せることで、PoSに高い信頼性をもたらすことができると考えています。さらに、Orbsチェーンを攻撃するには外部のネットワークを攻撃する必要があり、これは事実上不可能なことになります。Ethereumのセキュリティが高いのは言うまでもなく、PolygonはOrbsと似たようなステーキングモデルでEthereumのセキュリティを利用しているため、同様にセキュリティの高さを確保しています。
そして、Polygonからのステーキングは、Ethereumからのステーキングに比べ圧倒的にGASのコストが安くなっています。また、Polygonからのステーキングには、将来的に自動複利機能が実装される予定であるため、新規に$ORBSをステーキングする場合は、Polygonで$ORBSをステーキングすると良いといえるでしょう。
デリゲーターとしてステーキングを行う場合、EthereumもしくはPolygon上の$ORBSをMetaMaskに入れます。さらに、トランザクションを実行するためのGASを入れ、Tetra(テトラ)に接続します。Tetraは日本語にも対応しています。
Tetraに接続すると、ステーキングされていない$ORBSの枚数が表示されます。
その後、バリデーター(ガーディアン)から委任するガーディアンを選択します。
最後に、ステーキングのためのトランザクションの承認を行い、ステーキングを実行することでステーキングが開始します。ステーキングを解除する場合、14日間のアンステーク期間が必要になります。
ORBSトークンが売買できる主な取引所
中央集権型取引所(CEX)
分散型取引所(DEX)
- マルチチェーン:Rango Exchange(解説記事)
- Ethereum:Uniswap v2
- Polygon:QuickSwap
- BNB Smart Chain:PancakeSwap
- Avalanche C-Chain:Pangolin
- Solana:Raydium
- Fantom: SpookySwap
Orbsに関する情報
当メディアの記事
- Orbs プレジデント兼共同創業者 – Daniel Peled氏
- Orbs 日本事業責任者 – Mayo Hotta氏インタビュー
- Orbs ミートアップレポート